優れたマネジメントとは何かについて、検討を続ける余地はたしかにある。特に個別の状況にどう適用すべきか、という問題はあるだろう。しかし、部下があなたに求める期待については、別の話である。彼らが望む基本的な要素は判明しているのだ。個別の状況にそれらをどう当てはめるかについては、部下と話し合いを続けていけばよい。
優れたマネジメントには、何が求められるのか――部下の生産性を高めるために、上司が取るべき行動は何なのか――これは決して、謎に包まれたものではない。それらをどう表現するかは人それぞれだが、基本的な要素ははっきりしている。我々はこれを集約し、「3つの重要課題」と呼んでいる。すなわち、「自分自身を管理する」「人的ネットワークを管理する」「チームを管理する」である。拙著『ハーバード流ボス養成講座』(2012年、日本経済新聞出版社)では優れたマネジャーが取る行動、そしてすべてのマネジャーが目指すべき行動という形で説明した。これを直属の部下の視点に置き換えて表すのは難しくない。その内容を「部下の権利章典」として、以下に示したい。
すべての部下は、直属の上司に以下を期待することを許されるべきである。
●信頼に足る人物であること。信頼は、能力と人間性の上に成り立つものである。そのため、部下は次のことを期待してよい。(a)上司が目的と手段を知っていること。(b)上司がタスクおよびその従事者をサポートできるだけの、価値観、基準、対人能力、成熟した感情、思いやりを持っていること。
●直属のグループを超えて影響力を発揮すること。すべてのグループは、より大きな組織や組織外をも含む、相互依存のネットワークの中で機能している。上司が必要な資源、関心、協力などを確保してグループの成功を導けるか否かは、継続的な相互支援関係において、より広い範囲に影響力を発揮する手腕に左右される。
●「グループ」を「チーム」にすること。グループとは、共に働く人々の集合体である。チームとは、共通の目的とそれに沿った目標に向け、一丸となって取り組む決意を持つ共同体である。チームには、個人とは異なる「我々」という意識が存在し、「我々」に含まれる者は成功も失敗も全員が分かち合うのだという信念を共有している。なぜこれが重要なのだろうか。それは、チームメンバーは高い意欲と決意を持ち、全体としての創造力と生産性を高めるからである。有能なマネジャーは、グループをチームへと変身させる術を心得ている。つまり、説得力のある目的、やりがいのある目標、明確な計画、生産性の高い業務プロセスを示し、「我々」の文化を醸成する。
●個々人としての部下を認め、成長を支援すること。人は集団に帰属することを望む一方で、個人として認められることも望んでいる。有能なマネジャーは、チームメンバー個々人を理解し、共に仕事をするなかで彼らの成長を助け、各人の貢献を評価する。そのすべてをチームという文脈のなかで行う。
部下が上記の基準を取り入れたとしたら、あなたはどうするだろうか。これらを上司に求めることが、全社員に義務づけられたらどうなるだろう。部下へ業績評価を通達する場で、上記の期待に対するあなた自身の成績について話し合うとしたら、どうなるだろうか。
HBR.ORG原文:The Right to Management Competence April 27, 2011

リンダ・A・ヒル(Linda A. Hill)
ハーバード・ビジネススクールのウォーレス・ブレット・ドナム記念講座教授。経営管理論を担当。主な著書にBeing the Boss: The 3 Imperatives for Becoming a Great Leader(邦訳『ハーバード流ボス養成講座 優れたリーダーの3要素』日本経済新聞出版社)がある。
ケント・ラインバック(Kent Lineback)
著述家。リンダ・ヒルとの共著Being the Boss: The 3 Imperatives for Becoming a Great Leader(邦訳『ハーバード流ボス養成講座 優れたリーダーの3要素』日本経済新聞出版社)がある。