●人々がアイデアを理解し導入できるよう、実践的な手段を提供する
 抽象的なアイデアには反応しにくいものだ。そこでアイデア・アントレプレナーは、アイデアを実践可能な手段に落とし込み、人々の行動を喚起してアイデアに導く(そして自分自身がその手本を示す)。「エコ・シェフ」として知られるブライアント・テリーは、良好な栄養こそ社会正義を実現する最善の道だと主張するシェフであり活動家だ。彼はその思想を料理のレシピに具現化し、料理法の助言を通して健康的な食生活の普及に努めている。

●アイデアに他者を巻き込む
 アイデア・アントレプレナーは、自分のアイデアの発展、表現、適用に際し他の人々を巻き込む。そこには連携やネットワーク、グループが生まれる。アル・ゴアは、環境の持続可能性についてのアイデアを世界中の人々に理解してもらうために、気候変動の改善に取り組む団体(Climate Reality Project Leadership Corps)を立ち上げた。エックハルト・トールはスピリチュアルリーダーであり、『さとりをひらくと人生はシンプルで楽になる』(徳間書店、2002年)の著者でもある。彼はオンラインで「エックハルト・ティーチング・コミュニティ」を立ち上げ、130カ国のメンバーが参加している。このように、さまざまな方法で大勢の人を取り込むことによって、私が「息吹き」と呼ぶ現象が生まれる――アイデアが呼吸し始め、あたかも生命を宿したかのように動きだすのだ。

●変化への道を探求し続ける
 物事を改善して世界を変えるための、アイデアを持つ人がいる。その多くは、問題を指摘し解決策を提案するものの、実践となると他人任せだ。一方アイデア・アントレプレナーは、アイデアの表明を取り組みのはじめの1歩と位置づける。実際、生涯をかけて進めていくことになるかもしれない。引き続きアイデアを発展させ、新たな人々にリーチし、実践手段を提示していく。変化を起こすために、これらを続けていくのだ。デリーで活動する社会起業家のビンデシュワル・パタクは、インドが潜在能力をフルに発揮するためには世界水準の公衆衛生が必要だと考えている。彼はアイデア・アントレプレナーとしての40年間の日々を、執筆や講演、視察旅行、ネットワーク構築、技術開発などに費やし、何百万もの人々の考え方や行動に影響を及ぼしてきた(非営利団体のスラブ・インターナショナルを設立し、公衆衛生の改善に尽力している)。

 この数十年、いや数世紀にもわたって私たちの思想や社会を形づくり、現在も私たちに影響を与え続けている人たちは、アイデア・アントレプレナーとしての道をたどっている。ベンジャミン・フランクリンからマハトマ・ガンジー、そして慈善行為に対する破壊的アプローチをみずから示したアメリカの少女、ハンナ・サルウェンに至るまで。(訳注:貧富の差を目にした14歳の少女ハンナは、両親に豪邸を売却して寄付するよう提案した。一家は2006年にこれを実行して売却益の半額を寄付し、一連の取り組みをThe Power of Half という本で発表し話題を呼んだ。その後、同名の慈善活動を続けている。)

 最近では、アイデア・アントレプレナーのモデルは明確となり、誰もが目指すことができる。アイデアを生み出し共有するための、驚くほど幅広い活動が可能になったおかげだ。あなたはアイデアを持ち、世に問いたいと考えているだろうか。もしそうなら、アイデア・アントレプレナーシップこそ、この世界を変革し改善するうえで最善の手段となるはずだ。


HBR.ORG原文:Idea Entrepreneur: The New 21st Century Career May 27, 2013

 

ジョン・ブットマン(John Butman)
コンテンツ開発を支援するアイデア・プラットフォーム共同創設者。最新刊にBreaking Out: How to Build Influence in a World of Competing Ideas (HBR Press, 2013)がある。