本誌2014年1月号(2013年12月10日発売)の特集は、「人を動かす力」。HBR.ORG関連記事の第2回は、前回の記事で紹介した「アイデア・アントレプレナー」について、さらに掘り下げる。シェリル・サンドバーグ、ダニエル・ピンク、ビニート・ナイアなど、みずからの信念とアイデアで人を動かし変革を起こそうとする人たちには、5つの共通点があるという。


 近頃、ビジネス界やカルチャーシーンで新たなプレーヤーが台頭している――「アイデア・アントレプレナー」だ。あなた自身もそうかもしれないし、そうなりたいと願っているかもしれない。アイデア・アントレプレナーとは通常、専門知識を備えた型破りな一個人である。その主な目的は、自分が熱望するテーマに沿って、人々の考えや行動様式に影響を及ぼすことだ。権力を求めるわけではなく、巨万の富を動機とするわけでもない。目標はあくまで、現状を改善し世界をどうにかして変えることである。

 アイデア・アントレプレナーは、至る所に出現している。たとえばシェリル・サンドバーグだ。フェイスブックCOOにして『LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』(日本経済新聞出版社、2013年)の著者である彼女は、組織に属しながらも、斬新で大胆なアイデアを提唱している。あるいはアトゥール・ガワンデだ。チェックリストを提唱しているこの医師は、プロフェッショナル職における規律を改革すべく取り組んでいる。そしてブレイク・マイコスキーもいる。靴と眼鏡を扱うトムスを創業した彼は、従来とはまったく異なるビジネスモデルを立ち上げた(1足の靴が購入されるたびに、靴を必要としている世界の子どもたちに新しい靴が贈られる「ワン・フォー・ワン」)。

 この現象を調査したところ、実にさまざまな人々がアイデア・アントレプレナーを目指していることを知って驚かされた。アイデアを持ち、それを公表し広めたいと願い、場合によってはそのアイデアを基盤として持続可能な事業を築きたい、と考えている世界各地の人たちに、私は面会してインタビューを行い、Eメールやツイッタ―で交流した。そのなかには図書館員、セールスパーソン、教育者、13歳の子ども、マーケター、技術者、コンサルタント、ビジネスリーダー、社会起業家などがいた。

 こうした人々のなかには、ビニート・ナイアが自社の「従業員第一、顧客第二」主義で実践したように、既存のビジネス手法に破壊的変化をもたらす者もいる。また、社会活動家のマリア・マディソンがマサチューセッツ州コンコードで反奴隷運動の歴史に光を当てたように、小さなコミュニティで住民の意識改革を促す者もいる。しかしどの場合でも、成功するアイデア・アントレプレナーの手法には、次のような共通点がある。

●いくつもの役割を演じる
 彼らはマネジャーであり、教師、モチベーター、エンターテイナー、コーチ、思想的リーダー、グールーでもある――それらが一体となった存在だ。リード・ホフマン(リンクトインの共同創設者、『スタートアップ!』〈日経BP社、2012年〉の著者)、ダニエル・ピンク(『モチベーション3.0』〈講談社、2010年〉の著者)、あるいはインドのキラン・ベディ(インド初の女性警察官で警察署長も務めた。刑務所の改善と、警察の腐敗根絶を目指す世界的活動のリーダー。TED動画はこちら)がその好例だ。

●アイデアを表明するプラットフォームをつくり、普及活動を支える財源を生み出す
 アイデア・アントレプレナーは、アイデアを表現することに特別に秀でている必要がある。その際、非公式の発言や公式のスピーチ、本やブログや記事の執筆、パネル・ディスカッションやイベントへの参加、ソーシャルメディアの活用などさまざまな方法を用いる。こうした活動によって、参加費や執筆料、関連商品の販売といった形で、(時にはかなりの)収入を得ることが可能となる。ジム・コリンズは本の売上やメディアへの出演料のほか、コンサルティングやスピーチ、ワークショップで得た収入を基盤として、長期にわたり事業を継続している。