経営陣を振り向かせるような、調査結果の視覚化の例を見てみよう。以下のマップは、顧客がある単純なタスク――IP電話用のホームルーターの設置――を行うために必要なすべてのステップを網羅したものだ(これは2005年当時のもので、現在の製品・サービスとは関係ない)。このマップは「新製品エクスペリエンス」として、購入・開封、探索・セットアップ、使用・習熟、の3段階に分かれている。我々は初心者ユーザーの小グループが一連のプロセスを達成する様を観察した後に、このマップを作成した。そして、製品の設置にまつわるユーザーエクスペリエンスを全面的に改善する必要性を、彼らの言葉やエピソードをまじえて経営陣に説明した――ルーターそのものを改良するだけではだめであることも。

 

新たなリーダーシップの台頭

 営業とマーケティングを重視する従来型の大企業は、「顧客中心」のアプローチを取っている。一方、スクエアやジップカー(カーシェアリング会社)といった新種の組織は「UX中心」である。両者の隔たりはますます広がっており、将来のリーダーにはこの隔たりを埋める能力が求められる。幸いにも、UXの新たなリーダーシップを訓練するための恰好の舞台がある――スタートアップ市場だ。プロフェッショナルを目指す者やMBA取得者は、スタートアップのヒーローたち――マーク・ザッカーバーグやジャック・ドーシー、デニス・クローリー(フォースクエアCEO)など――を手本にすることで、新しい何かを創造するチャンスをつかんでいる。スタートアップの誰もが成功するわけではないが、この市場に参加するリーダーは、エンドユーザーから拒否された製品やアイデアを直接見ることで、貴重な教訓を得られるだろう。新たにUX思考を身につけた幹部候補は、どの業界でも一流の仕事に就き、アメリカの産業界にUX文化の種を蒔くことができるはずだ。彼らが参加したがるのは当然、UXを理解している企業だ。

 では、組織から離れスタートアップに加わることができない、という場合はどうUX能力を磨けばよいだろうか。UXの組織能力を高める戦略を考案し、製品中心の起業家精神を促進している企業はたくさんある。コムキャストのような一部の大企業は、ベンチャー企業に投資することでUXを学んでいる。グーグルベンチャーズは、投資活動を収益目的だけではなくUXのコミュニティと関わる手段としている。同社の素晴らしいブログ「デザイン・スタッフ」は、リーンによるUXの方法論をオンラインで共有する場となっている。GEは、イノベーション・アクセラレーターに投資している。製品チームが起業家的な思考を持って新規イニシアチブを立ち上げられるように、外部の専門家(『リーン・スタートアップ』の著者であるエリック・リースなど)を招いてチームへのコーチングを行っているのだ。そこで培われたUX思考が、名高いクロトンビル(GEのジョン・F・ウェルチ・リーダーシップ開発研究所)にも広がることを願うばかりである。

 UX戦略に関する詳細は、私の前回の記事も参照されたい。あなたの会社がUXリーダーシップの波に乗るお役に立てれば幸いである。


HBR.ORG原文:The Rise of UX Leadership July 16, 2013

 

ロバート・ファブリカント(Robert Fabricant)
デザイン・コンサルティング会社フロッグ(frog)のクリエイティブ担当バイス・プレジデント。