グローバリズム研究の第一任者ゲマワットは、多国籍に事業展開する企業に最も必要なのは「コスモポリタニズム」(国際主義)であると主張する。しかし企業の国際化は、そもそも経営陣からして進んでいないという。組織の体制と意識を変えていくためのガイドを示す。


 自社のターゲット市場はグローバルだが、経営陣の顔ぶれとなると、それほどでもない――そう思う読者がいるのなら、あなたの会社はけっして特別ではない。メンフィス大学のベン・L・ケディアとハワイ大学のシャーリー・ダニエルの調査によれば、米国企業の約30%が、「自社には国際的に通用する人材が不足しているために、国際的なビジネスチャンスを十分に活用できていない」と考えている。この問題は、そもそも経営陣から始まっているのだろうか。

 私は2011年にHBRの論文「コスモポリタン企業への道 ワールド3.0の時代」で、こう指摘した。完全にグローバルでもローカルでもなく、その両方が入り混じる複雑な現状(私の言う「ワールド3.0」)において企業が成功するには、コスモポリタンな(国際色の濃い)経営陣こそが、組織にとって重要な要素となる。

 そして今、それを裏付ける新たなデータがある。

 2013年6月号のフォーチュン誌で私とヘルマン・バントラッペンが発表したように、世界最大手500社「フォーチュン・グローバル500」のうち、自社の本拠地ではない国の出身者がCEOを務める企業はたった14%であった。規模がもっと小さい企業であれば、外国人CEOの割合はさらに低くなる。そして国連貿易開発会議が発表した「世界で最も多くの海外資産を保有する100社」では、外国人のCEOおよび役員の割合は30%以下である(2012年。金融セクターを除く)。2008年のエゴン・ゼンダーの調査によれば、米国S&P 500社の役員のうち外国籍を持つ者はたった7%であり、米国以外での学位を持つのは9%、そして73%は国際的な仕事をした経験がまったくなかったのだ!

 企業の経営陣についてさらに詳しく分析してみても、状況はあまり変わらない。最近の調査によると、上級幹部の76%が、グローバルなリーダーシップを発揮する組織能力の開発が必要と考えている。だが、効果的に実践していると感じている者は7%にすぎない。2005年にボストン・コンサルティング・グループが行った調査によれば、調査対象の企業は16の新興国から今後5年間で35%の成長を得ようとしていたが、経営トップ200人のうちそれら16カ国を出身地とする者は、わずか7.5%であった。

 欧米の多国籍企業にとって、経営陣のグローバル化が進まないことは、新興国市場を取り込むうえで大きな障害となっている。ベイン・アンド・カンパニーによる2012年の報告によれば、新興国の現地企業は、競合する外資の多国籍企業に比べ、売上高と利益をほぼ2倍の速さで成長させているという。新興国の有望な人材を採用しようとする時、「わが社での昇進やキャリアは、本拠地の国や地域の出身か否かという偏見には左右されない」という証拠をはっきり示すことは、ますます難しくなっている。コンラッド・シュミットがHBRで発表した報告によれば、中国の優秀人材が現地企業よりも外資の多国籍企業を選好する度合いは、2007年に比べ2010年は半分に低下している。

 もっとも、新興国の現地企業は、コスモポリタニズム(国際主義)の推進に関して欧米の多国籍企業よりもはるかに遅れている。フォーチュン・グローバル500社に含まれるBRICs諸国の企業96社のうち、外国人CEOを擁しているのはわずか1社である。新興国の企業は、自国の低コストを武器に競争するよりも、差別化によって先進国市場でブランドを構築しようとしており、これはますます重大な問題となるだろう(米国企業の場合、本国出身でないCEOの割合はちょうど世界平均の14%である。この割合が高いのは主に欧州の小規模国であり、1位はスイスの73%)。