一期一会の感動の共有が、ソーシャルメディアに力を与える
――なぜこれほどまでにソーシャルメディアの力は強くなったのでしょうか。
近藤:アーティスティックな人に限らず、人はだれしもが何かを表現したいという気持ちを持っていると思います。ただ、いままでのメディアは、パソコンの前に座ってキーボードをたたいて発信するものでした。その時には「しっかり書かなくちゃ」とか、「実名だったら恥ずかしい」とか、そうした様々な要因があって実際に感じていることの1~2%程度しか発信できなかったと思うのです。しかしTwitterは常に持ち歩くスマートフォンで簡単に操作ができ、しかもたったの140文字で、匿名性もあります。そうした条件の違いによって、もっと幅広い層を捉えられるようになっています。
人間の表現したい、共有したいという思いを実現するツールがTwitterであり、そのツイートを見た人が新たな発見や感動をさらに他の人々と共有して、社会に共鳴が広がる。こうした思いというのはとても自然なものです。ソーシャルメディアの力が強くなったのは、それが空間を超えてできたことにあると思います。
時空を超えて、という言葉があります。インターネットは時空を超えることができますが、Twitterが特別なのは、リアルタイム、つまり「いま」にこだわり、空間を超えても時は揃えるところです。時を揃えるという制約が、「いま」の地球の鼓動を感じることに繋がり、それがフレッシュな感動を生むのです。オリンピックを例に取れば、いままさにゴールした瞬間の感動を世界中どこにいる人とも共有できるのがTwitterの力です。一週間後に一人でビデオを見る楽しみとは異なる、その瞬間だからこそ味わえる醍醐味を空間を超えて、人々と共有することが可能になったのです。昔から、それぞれの地域でテレビを見て盛り上がったり、各家庭のお茶の間で感動を共有するということはあったでしょう。個人を動かし、人々を動かし、社会を動かすような感動というのは元々あったものです。それが技術的なイノベーションによって、リアルタイムで何億人もの人を瞬時につなぐことができるようになりました。一期一会の感動。ライブの感激。それを、みんなが夢見た以上に広いスケールで体感できるようになったことが、いまのソーシャルメディアの力になったのだと思います。
――日本は特にTwitterが活発と言われていますが、日本のどのような特徴が影響していると思いますか。
近藤:日本はTwitter初の海外拠点であり、アメリカ、イギリスと並ぶ3大マーケットのひとつでもありますが、日本で顕著に見られる特徴というのは3つあります。
最初に挙げられるのは、「1秒当たりツイート数」です。1秒当たりツイート数の世界記録はほとんどが日本の記録です。たとえばこの夏に「天空の城ラピュタ」が放映された時の、作中に登場する「バルス」という言葉と同時に行われたツイートは秒あたり14万ツイート以上を記録しました。「あけおめ(あけましておめでとう)」やワールドカップのゴールを決めたときも同様に、非常に大きな記録をつくっています。これは日本人の意識が一点に結集しやすいことを示していると思います。
その何がすごいかと言えば、アメリカには日本の倍以上の人がいるにも関わらず、日本の方が記録をつくっていることです。日本では国民の意識が特定の時間軸、それもほんの数秒に結集するエネルギーが非常に高いのです。このTwitter上の瞬間風速力に関しては、日本が世界一高いと言えます。「あけおめ」も日本人にとっては当たり前のことですが、世界的にはそんなことはありません。たとえばリオのカーニバルがあっても、ブラジル全土で一斉にツイートされることはありません。しかし日本では、除夜の鐘を聴いて皆が一斉に「あけおめ」ツイートをするのです。
また、1人当たりのツイート数も非常に多いです。日本人はあまり自分を表現しないと言われますが、実はどこかで自分を表現したいと思っているのではないでしょうか。本音と建前を使い分け、自己主張を強くしない反動かもしれませんが、自分を表現して共有したいという気持ちは強いと感じています。しかも、それを短く、簡潔に表現できる。これは短歌や俳句の伝統かもしれません。
さらに、話題の幅も、友達との日常的な会話、芸能やスポーツといった楽しい話題から、ビジネスやライフラインのような真面目な話題まで多様にあります。広く関心を持つのも、日本の特徴かもしれません。