「当社は定量的な側面を重視する企業です。感情を露わにする社風ではなく、社員は『とても』という言葉をめったに使いません。ところが、参加者のほぼ100%が、ボランティア活動は『やりがいがある』、または『とてもやりがいがある』と答えたのです。そして67%は、これまで付き合いのなかった同僚と新たな関係を持つようになりました。この活動のあと、参加者の51%は自社に対する好感度が高まったと答え、50%は自己肯定感が高まったと答えています。最初はいくつかの部門に限られた活動でしたが、いまや全社的な取り組みになり、2011年には社員の半数以上が参加しました」

 海外ボランティアのプラットフォームであるCDCディベロップメント・ソリューションズ(現ピクセラ・グローバル)の調査によれば、フォーチュン500に名を連ねる企業のうち少なくとも27社(ダウコーニング、インテル、ペプシコ、フェデックス、IBM、ファイザーを含む)が、より大きなチャレンジを求める従業員のために、インドやブラジル、ベトナム、ガーナなどの新興国市場で公益のための奉仕活動を実施している。従業員にとっては新たなスキルを身に付ける機会となり、企業にとっては新興国市場の新たなビジネスチャンスを探る機会となる。そして現地の組織には、企業の専門知識を獲得し関係を築くという恩恵がもたらされる(ちなみに、従業員は「ボランティア」の名目で活動していても、通常は活動期間中も給与を受け取っている)。

 たとえばアーンスト・アンド・ヤングが実施する「CSRフェロー」プログラムは、従業員を中南米に3カ月間派遣し、自社と同じ仕事を現地の小企業のために行わせる。その狙いは、現地の起業家が抱える喫緊の課題――多くの場合、独力では手に負えない問題――の解決を支援することで、成長市場の事業を後押しし、関係を構築することである。最近のプロジェクトには、ウルグアイで交通事故防止とリスク管理サービスを提供する現地企業のための人材育成計画の開発や、エコバッグを製造するチリの企業のための財務記録の整理などがある。

 こうしたボランティアの任務は単調な仕事に昂揚感をもたらすが、より大きなメリットとしてはキャリアを前進させる契機になる。ボランティアの任務をめぐる競争率が、出世コースさながらに高い企業もある。たとえばインテルでは「教育サービス部隊」に参加できるのは、応募者の5%のみであるという。参加者の体験はブログや動画を通して全社的に共有され、インターネット上でも広まるため、注目を浴びる。その結果、新たなつながりが生まれる可能性が常にある。

 つまり、企業のボランティア・プログラムは、金銭を超えた見返りをもたらすのだ。参加者にも企業にも実質的な恩恵があるため、ボランティアは単なる「やっておいたほうがいい」程度の活動ではない。人材をつなぎ留める手段であり、リーダーシップ開発の機会であり、ビジネスにおける戦略的な取り組みなのだ。


HBR.ORG原文:Strengthen Your Workforce Through Volunteer Programs March 5, 2012

 

シルビア・アン・ヒューレット(Sylvia Ann Hewlett)
非営利の研究機関、センター・フォー・タレント・イノベーション(CTI、前身はセンター・フォー・ワーク・ライフ・ポリシー)の創設者、所長兼エコノミスト。