「選択と集中」が経営戦略のキーワードとなって久しいが、これをグローバル展開に適用し成長を遂げた企業は少なくない。特に「EMNCs」――新興国出身の多国籍企業――の成功の秘訣は、経営資源の制約を巧みに利用した集中戦略であり、本記事ではその事例と要諦を紹介する。本誌2014年2月号(1月10日発売)の特集、「日本企業は新興国市場で勝てるか」の関連記事、第4回。


 自社より多くの経営資源を持つ大企業に勝つには、どうしたらいいだろうか。新興国で次々と勃興する小規模企業は、大企業に勝つことが可能なだけでなく、自分たちが優位に立っていることに気づいた。重要なのは、自社の経営資源を――それがどれほど限られていようとも――いかに戦略的に投入・展開できるかどうかである。

 拙著The New Emerging Market Multinationals (マグロウヒル、2012年)を執筆するにあたり、筆者らは「EMNCs(Emerging Multinational Companies:新興国出身の多国籍企業)」と呼べる新興企業39社を調査した。そして、これらの新参者たちが大企業を相手にどう競争してきたのか、そのパターンを見出すことができた。

 たとえば、大企業は製品やプロセスを標準化し、遠方にある外部の設備に委託して生産を行うことが多い。これに対して小規模な企業は、自社所有の、低コストで柔軟な設計・製造能力を活かし、自社製品を顧客のニーズに細かく合わせることで、大手競合を打ち負かせる。台湾のGPSメーカーのマイタック(神達電脳)は、この戦略を用いてアジアの各市場向けに製品をカスタマイズすることで、競合のガーミンやトムトムよりも市場の細かなニーズに応えることができた。

 小規模企業にとって特に重要なのは、(限られた)経営資源をどう投入・展開するかである。ポイントは、インパクト最大化である。インドのゴドレジは一般消費財業界への参入に際し、西側の大企業と真正面から広範囲に戦って経営資源を浪費することはしなかった。その代わりに、3つの製品カテゴリー(染毛剤、石けん、殺虫剤)と、3つの地域(南アジア、中東、北アフリカ)に的を絞った。ブラジルの化粧品メーカー、ナチュラ・コスメティコスは、アマゾンの熱帯雨林から得られる天然の材料ですべての製品をつくっている。そこでの材料調達に関しては、他のどの企業よりも優れているからである。

 的を絞って資源を集中させるべき分野は、もちろんほかにもある。