今後の世界経済を牽引するのは、中国とインドを筆頭とする新興国である。世界的経営コンサルティング会社BCGが現地の消費者に直接インタビューをし、その消費マインドを描いた『世界を動かす消費者たち』の発刊を記念し、新興国の消費市場を読み解くヒントを提示する。


ボストン コンサルティング グループ(BCG)では、中国とインドの消費者市場の規模は2020年までに現在の3倍、合計で年間約10兆ドルに達すると予測している。企業はどうしたらこのまたとない成長機会を取り込むことができるだろう。中国とインド、そしてその結果として世界で成功をおさめるために有利な立場に立つには、新たな消費者たちの心を魅了し、勝ち取る必要がある。その基本となるのが、この独特な市場における価値の概念、もっと具体的に言うと、「パイサ・ヴァスール(paisa vasool)」という感覚を理解し、その実現に向けて取り組むことである。

マイケル・J・シルバースタイン
ボストン コンサルティング グループ(BCG) シカゴオフィス シニア・パートナー。
ハーバード大学経営学修士(MBA with honors)。共著に『なぜ高くても買ってしまうのか』『ウーマン・エコノミー』(ダイヤモンド社)等。

「パイサ・ヴァスール」は、インドの消費者たちが、品質と価格のバランスが申し分ないと思ったときに発する、最高の褒め言葉だ。高品質な、金額に見合う価値を提供する最高のパッケージといった意味をもつ。いまや新興国のみならず、世界中の消費者が予算のプレッシャーを受けている。小売企業に対して懐疑的になっており、将来の心配もある。こうした環境にあって「パイサ・ヴァスール」は、より高い価値を創り出し、より安価により多くの機能を提供して、自社の支持者となる消費者をひきつけるためのスローガンになりうるのではないだろうか。

 私たちがこの言葉を初めて聞いたのは、デリーの街中の市場だった。それ以来、中国やインドのあちこちでこの感覚が普通に消費者の行動に現れるのを目にしてきた。これは、多くのインド人や中国人に特徴的な倹約意識の一種だ。彼らは、両親から頻繁に貧困にまつわる話を聞いて育ち、その結果として、収入を最大限活用しようと努める。彼らはまた、価格に見合う価値が感じられない場合や、低品質、不当表示に対しては、すぐに苦情を言い、小売店に不審を抱く。

 インドと中国の消費者は、割安な価格で商品のあらゆるベネフィットを得たいと思う。マヒンドラ&マヒンドラの自動車・農機部門の社長を務めるパワン・ゴエンカ氏は私たちに次のように語った。「インドの消費者は他の地域の消費者とは違います。彼らは先進国のテクノロジーや機能をインド水準の価格で手に入れたいと望んでいるのです」。同氏は、インド初のグローバル市場向けSUVであるスコーピオの開発プロジェクトのリーダーを務めた。スコーピオは、価格は競合他社の半額程度でありながら、本格的な機能とスタイリングを提供し、現在では同社の重要な輸出向け製品として多くの国々で販売されている。