「私たちはこれまで、緑色に該当する事業やプロジェクトを称え、赤に該当する事業・プロジェクトに多くの時間を費やしてきました。しかし、より幅広いポートフォリオで比較すると、そうした取り組み方は業績全体から見てあまり意味がない場合もありました。ビジュアル・アナリティクスによって、意思決定者は重要なビジネス課題に素早く焦点を当てることができます」
このようなビジュアル表示を社内で共有することは、P&Gのようなグローバルな企業にとって重要である。マネジャーを1つのブランドや地域市場から定期的に異動させることで人材育成を図るからだ。会社全体で一貫性のあるデータのビジュアル化は、このような戦略を促進させる。シンシナティ、シンガポール、あるいはジュネーブのビジネス・スフィアに足を踏み入れると、同じ表やグラフが表示されているのを見ることができるだろう。あらゆる拠点のどのデスクに腰を落ち着けても、同じようにディシジョン・コックピットにアクセスできる。P&Gはディシジョン・コックピットのグラフィックや色をアップル製品のシンプルさに見習い、マネジャーたちが世界のどこにいても重要なビジネス課題を把握できるようにしている。
もちろんビジュアル表示だけでなく、情報そのものも組織全体で共通のものとすべきだ。P&Gには、「事業の充足度」(business sufficiency)を表す7つの分析モデルがある。これによって、ある問題領域に対処するためにはどの情報を用いるかが特定される。たとえばサプライチェーンの問題に着目しているのであれば、充足モデルは基本変数と、それに見合ったビジュアルの形式、そして(場合によっては)変数間の関係性を特定し、その関係に基づいて予測を行う。
データ表示の共通化と明瞭化に対するP&Gの尽力は、何を可能にするのか。上級マネジャーが、誰のデータが正しいのか、どのデータを実際に用いるべきか、あるいはどう表示するのがベストなのかといった議論に時間を費やす必要がなくなる。問題や機会への対処法を考える時間ができ、ビジネスの成功につながる実りある創造性がもたらされるのだ。
HBR.ORG原文:How P&G Presents Data to Decision-Makers April 4, 2013

トーマス H.ダベンポート(Thomas H. Davenport)
バブソン大学の特別教授。情報技術・経営学を担当。マサチューセッツ工科大学センター・フォー・デジタル・ビジネスのリサーチ・フェロー。インターナショナル・インスティテュート・フォー・アナリティクスの共同創設者。デロイト・アナリティクスのシニア・アドバイザーも務める。