できれば状況をコントロールしたいと願うのが人間のさがである。まして意思決定を迫られる場面ではなおさらである。しかしそれがどのような影響を及ぼすのか、ファイナンスの大家で、ダイヤモンド・オンラインの連載でもおなじみの真壁昭夫教授による入門書『行動経済学入門』の一部を紹介する。連載第4回。

 

受け取り方が意思決定を左右する!――フレーミング効果

 一般的に、情報の受け手の意識が固定化してしまうことによって、事実誤認が発生することを「フレーミング効果」という。

 同じ内容の情報であるにもかかわらず、情報の受け取り方によって大きく印象が異なるという経験をされたことはないだろうか。

 たとえば、会社の仕事に追われている中で、2日後には決算関連書類を上司に提出しなければならない場合を考えてみよう。「もう2日しか残っていない」と考えるのと、「まだ2日残っている」ととらえる場合では、心理的ストレスはどちらのほうが大きいだろう。多くの場合、後者のほうがゆとりを持って作業に臨むことができ、ほかの仕事も順調にこなせることだろう。一方、時間がないと思って焦って作業に取り掛かった結果、ミスが多発し、そのほかの作業に手が回らなくなることも想定される。

 行動ファイナンスでは、同じ事実であっても受け取り方の差異により異なる効果が現れることを「フレーミング効果(Framing Effect)」と定義している。ここでは、フレーミング効果の影響を理解するに当たって、行動ファイナンスの創始者であるカーネマンとトベルスキーが行った実験とその結果を紹介しよう(カッコ内の数字は、①と②のプロセスについて、選んだ被験者の割合である)。

【A】最初に1000ドル受け取る。次に、①ほぼ確実に500ドル受け取ることができるか(84%)、②50%の確率で1000ドル獲得できるが、50%の確率で何も得ることのできない賭け(16%)のどちらかを選ぶ。

【B】まず2000ドル受け取る。次に、①ほぼ確実に500ドルを失うか(31%)、②50%の確率で1000ドルを失うが、50%の確率で何も失わない賭け(69%)のどちらかを選ぶ。

 この2つのゲームの最終損益は経済価値の観点では均一である。つまり、A、B両方のゲームとも、①のプロセスでは合計して1500ドルの確実な利益と、②のプロセスでは1000ドルを獲得する確率が50%、2000ドルを獲得する確率が50%のゲームのどちらかを選択することであるからだ。

 このゲームを2段階に分かれたものとして分析してみよう。まず①のプロセスでは確実なゲームが行われる。そしてこれを受けて②のプロセスへのリファレンス・ポイントが形成される。注意して考えれば、Aでは当初の1000ドルに比べてリファレンス・ポイントが利益(プラス)の局面に移動しているのに対して、Bでは当初の2000ドルに比べてリファレンス・ポイントが損失(マイナス)の局面に移動していることがわかる。

 つまり、人間の心理状況によって、最終的な経済効果が同じであるにもかかわらず、Aの参加者とBの参加者が想定する展開には差異が生じる可能性がある。この実験の場合、最終的な経済効果は同じであるにもかかわらず、情報の受け取り方が1000ドルから出発して金額が増加するのか、あるいは2000ドルから出発して金額が減少するのかというプロセスの差異によって、参加者の意思決定が異なってしまったのである。