2013年4月に87年の生涯を閉じた、マーガレット・サッチャー。その際立ったリーダーシップと強硬な政治手腕は、功績と犠牲、称賛と批判の両方を生んだ。「度を超えた強みの発揮は、マイナスとなる」と唱える筆者らが、サッチャーの資質を改めて検証する。
私たちはマーガレット・サッチャーの名を、優れた指導者として、および極端な政治家として記憶にとどめるだろう。実際のところ、この2つの側面はほぼ表裏一体なのだ。サッチャーのリーダーシップの真髄は、揺るぎない信念と粘り強さにあったが、これは保守というよりも革命派の資質に近い。保守党党首として現状を打破しようとし、反対されようともみずからのアジェンダにこだわり続けた。サッチャーをウィンストン・チャーチル以来の最も影響力のあるイギリス政治家にしたのは、まさにこういった資質である。
しかし、大企業のCEOを含む経営幹部にコンサルティングを行ってきた我々が長年の経験から気づいたように、サッチャーの最大の強みは、最大の弱みでもあったのだ。
リーダーシップは往々にして、相反する両面から定義される――権威主義的vs民主的、タスク志向vs人間志向、短期的vs長期的などだ。典型的な尺度の1つは、リーダーの対人的スタイルに関わるもので、サッチャーにも顕著に表れている。つまり、独断・強権型vs参加促進・支援型である。
ほとんどのリーダーは、強権型と支援型が互いに補い合うものであることを、頭では理解している。にもかかわらず、両方のスタイルを組み合わせて用いることができるリーダーはほとんどいない。どちらか一方を極端に行使してしまい、もう一方のスタイルを補完的に用いることができないのだ。猪突猛進する強権的なリーダーが、他者の貢献の余地をなくしてしまう例はよく見られる。もしろん、逆もしかり。支援的で人間中心のリーダーが、厳しい決断を下せない、結果を追求し切れないパターンだ。
我々が新著Fear Your Strength(あなたの強みは、弱みにもなる)で述べたように、過去に成功をもたらしてきた資質そのものが、自身のキャリアにとって最大の脅威になりうる。これは、リーダーにとっては恐ろしい指摘だ。あまり気にかけない人も多いかもしれないが、すべてのリーダーに選択を強いることになるからだ。つまり、強みを発揮し続け、度を超してしまうリスクを冒すか、あるいはうまくいく保証はないが、別の能力を強化するか。サッチャーを例に考えてみよう。
HBRのシニアエディター、デイビッド・チャンピオンが指摘したように、マーガレット・サッチャーは闘争心にあふれる政治家であった。国営企業の民営化とイギリス経済の活性化、労働党政権による政策の全面的な廃止、ソ連の脅威に対する強硬な姿勢――。こういった政治的成功をもたらしたのは、彼女のトレードマークである不屈の精神、決断力、確固たるイデオロギー、合意政治に対する軽蔑だった。国際社会での高い評価を勝ち取った彼女のおかげで、イギリスは世界に大きな影響力を及ぼし、レーガン大統領からも熱烈に支持された。