人は得意なことで失敗する――この洞察をリーダーシップ支援に活かす筆者らは、今回はリンカーンの例を取りあげる。対人スキルに長けた者ほど、断固たる措置が取れない傾向があるという。寛大さをもって人々の忠誠を得たリンカーンもまた、人事の難題に直面した。
我々はリーダーの「強み」が度を超えてしまう現象について研究し支援を提供しているが、「どんな強みも行きすぎれば、弱みとなる」という考え方に対して、時に反対意見が寄せられる。たとえば、ある学術誌の編集者はこのことを示した研究論文の掲載を見送ったことがある。「リーダーが、部下の支えとなり、深い思いやりや誠実さを示すことにおいて“行きすぎる”ことなどありえない」と断言したのだ。
この編集者の判断は妥当だったのだろうか? 近頃、アメリカの最も偉大な大統領の1人に人々の関心が寄せられているが、この人物こそ恰好の例を示してくれる。大きく分裂していたこの国を活気づけ、激しい対立の中で国民を導いたアブラハム・リンカーンが稀有なリーダーだったことは間違いない。我々も個人的に、彼を最も尊敬するリーダーの1人に数えている。
しかし、リンカーンの評伝作家として名高い歴史学者ドリス・カーンズ・グッドウィン(著書Team of Rivals〈邦訳『リンカーン』〉は、スティーブン・スピルバーグの映画『リンカーン』の原作)は、入念なリサーチから意外な発見にたどり着いている。彼女はいままで軽視されてきたリンカーンの一面に着目し、ある可能性を導き出した。それは、リンカーンがかくも思いやりのある人物でなかったなら、もっと効果的にリーダーシップを発揮できただろう、ということだ。
2009年のHBRによるインタビューでグッドウィンがはっきり指摘したのは、リンカーンの類いまれなる対人スキルである(邦訳は本誌2010年3月号「反抗分子を集めてチームをつくる」)。驚くほど高い心の知性、反対意見に耳を傾けようとする意欲、才能を見出す鋭い目、他者を許す寛大さ、成功の功績は分かち合うが失敗の責任はみずからが背負う、といった点に彼女は言及している。これら一連の称賛すべき資質によって、リンカーンは人々の忠誠を獲得し、大物や自尊心の高い面々を引き入れて手綱をさばくことができた。その結果、対立する党派や、大統領の座をめぐって争ったかつてのライバルすら、閣僚の一員に加えることになる。彼らは、「リンカーンはこれまでに出会ったなかで限りなく完璧に近い人物だ、と考えるようになった」という。
しかしグッドウィンは、こうも結論づけている――「リンカーンの最大の弱みは、その強み――概して友好的で、人を傷つけることを好まない性質――から来るものでした」。この資質は彼の判断に影響を及ぼし、相手に何度もチャンスを与えすぎて物事が二転三転し、対処を遅らせることになったようだ。これが最も顕著に見られた不幸な例は、南北戦争初期のジョージ・マクレラン将軍への対応である。