――無料会員にも相当の価値を提供していると思いますが、有料会員の980円も相当に安いですね。これにからくりはあるのでしょうか。

山口:まず事業のコンセプトとして低価格は実現したかったのですが、絶対に「安かろう、悪かろう」というビジネスにはしたくなかったのです。だから講師陣には徹底的にこだわりました。受験サプリには十数人の講師陣がいますが、どの方も大手予備校でトップクラスの人気を誇る実力派の方々ばかりで、その力量は折り紙つきです。新しく講師を増やす際も、講義の質を考慮して彼らの承認を必要とする仕組みになっています。それほど講師を大切に考えているのは、質が低くて安いという構造にしたくなかったからです。コンテンツの質は決してどの予備校にも引けを取らない。それが根底にあります。

 一方で「捨てた」価値は、予備校が提供している教室・自習室という場所と対面授業というスタイルです。予備校の多くは、校舎と多数の講師・スタッフを持つことのコストが相当大きな固定費になります。だから我々はオンラインでその分優位になります。対面授業という魅力も思い切って捨てました。これは誰もが払えるこの値段にする上では仕方がないと割り切りました。

想定内の大学への営業、
想定外の高校での利用。

山口:実はこの価格にできたのはもう1つ理由があります。それは、受験サプリは高校生からの収入だけではなく、大学からの広告収入があるんです。この部分は従来の予備校ではない収入源です。

 先ほども申し上げましたが、リクルートは以前から大学を対象とした進学事業がありましたので、大学向けの営業部隊がいました。彼らが「リクナビ進学」という我々の既存サービスの広告営業に行っているので、それらと一緒に受験サプリの広告も営業することができます。つまりリクルートは追加のコストがゼロで、広告収入を拡大することが可能になるわけです。

――営業部隊も売る商品が増えるのは仕事がやりやすいでしょうね。

山口:そうなんです。セットで売ってもいいし、相手に合わせて最適な商品を薦めることができるようになりました。ですから受験サプリの広告収入もすぐに大きくなりました。

――それは想定外だったんでしょうか。

山口:いえ、ある程度は計算していました。想定外と言えば、リクルートは高校への渉外部門もあり、彼らが全国の高校に出入りしているのですが、受験サプリを学校単位で使いたいというニーズが出てきたのです。いわば寺子屋のように、放課後の教室を利用して生徒に受験サプリで復習・受験対策をやってもらうというスタイルです。そのような学校にはライセンス契約をします。現在学校単位で使って下さっている高校は数十校にまで増えました。これは計算外でした。

後半に続く)

*インタビューの後編「980円の受験サプリに競合は現れるか」も掲載されました。