だがそのためには、パソコンやタブレットの画面上ではなく、実際に人に会わなければならない。リンクトインの「つながりリクエスト」を送信する手を少し休め、ネットで情報を漁るのもやめる必要がある。なぜなら営業担当者にとって、オンライン上に存在する情報は競争優位の源泉にはならないからだ(これは投資家にとっても同様だ)。重要なのは、誰もが知っていることではなく、誰も知らない事柄だ。そうした情報がネット上にあるケースはほとんどない。事件記者が足で情報を稼ぐのと同じように、インタビューや面会、厚意の交換などを通じて、コツコツ情報を集める必要がある。
いまや誰もが、自分の車や家屋の査定をオンラインでできる。しかし、そのことを理解している営業担当者が最大の売上げを獲得できるわけではない。付加価値を提供できる者が最大の利益を得るのである。不動産業者であれば、家を購入した顧客をその地域コミュニティに紹介してくれる担当者。車のディーラーであれば、高い下取り価格を提示して、購入後も継続的にサービスを提供してくれる担当者などだ。
ビジネスの食物連鎖の上位に行けば行くほど、売り込みにおいてテクノロジーの出番は少なく、実際に顔を合わせての売り込みや交渉に頼っていることが多い。プライベート・エクイティ会社にとって、交渉をまとめ上げる対人能力は成否を左右する。ウォールストリートの銀行のトップたちは、政府の規制強化に反対する時にはワシントンDCに乗り込み、議会場を歩き回って陳情する。GEがインドで大きな販売契約をまとめようとした時には、ジェフ・イメルトが直々に赴いた。スティーブ・ジョブズが契約を結んだり、誰かを叱責あるいは称賛する時には、直接電話をかけたり、パロアルトの街に散歩に連れ出したりした。
テクノロジーの発展によって、昔ながらの営業手法の価値は減るどころか、むしろ多くの意味で高まっている。メールを送ることは誰にでもできる。しかし面会の約束を取り付け、じかに会って説得するには相応の気概や賢さが必要だ。フェイスブックでたくさんの友だちを得ることは、パジャマ姿で寝ころんでいてもできる。だが、あなたを頼ってくれる人たちと関係を築くには、足で稼ぐ努力と根気が必要となる。重要なのは知り合いの多さではない。何人があなたに会いたがっているのか、何人があなたを信頼して一緒に仕事をしたいと思っているかなのだ。
体を使えば仕事がよけい大変になる、と最初は思えるかもしれない。電子的なフィルターを通してではなく、じかに相手の反応を経験すれば、顧客の嫌そうな顔や笑顔を目の当たりにし、賛同や拒絶を表すありのままの感情に接することになる。そこで、まずは徹底的な自己分析を行い、自分がどういう人間なのかを見極めることから始めるとよい。自分が大切にする価値観は何か、自分の個性は何か、そしてどんな製品やサービスであれば自分はうまくセールスできるのか。自分の個性と営業の内容がマッチするのであれば、あなたは成功するだろう。
その次にすべきことは、実際に現場の経験を積むこと――これに尽きる。
だから、営業のマニュアルやマトリックス手法、気の利いたヒント集やハウツーは、捨ててしまおう。もしあなたの営業成績が振るわないのであれば、しばらくの間、テクノロジーは脇に置いておこう。スカイフォール、つまり原点に戻って古いやり方を再び使うのだ。その結果に、あなた自身も驚くはずだ。
HBR.ORG原文:If You're Not Selling, Turn Off the Computer December 11, 2012
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フィリップ・デルブス・ブロートン
(Philip Delves Broughton)
『なぜハーバード・ビジネス・スクールでは営業を教えないのか?』(プレジデント社)の著者。フィナンシャルタイムズ、ウォールストリートジャーナル、スペクテイターへ定期的に寄稿している。