『ハーバード・ビジネススクールが教える 顧客サービス戦略』の著者、フランシス・フライとアン・モリスの連載をお届けする。企業は従業員に「最高のサービス」を追求させるのではなく、「最高のサービスモデル」を構築せよ――これが本書のメッセージだ。第1回は、不況下で勝ち抜くために「コスト削減」と「サービス向上」を両立させるヒントを紹介する。
よいサービスは、どんな時代にも差別性を生む。人々が不況にあえいでいる時はなおさらだ。サービス業界で大恐慌を乗り越えて繁栄したのは、メイシーズやディズニーのように、不安と不確実性が渦巻くなかで顧客にどう対応すべきかに気づいた企業だった。立ち込めた不景気の霧は薄れつつあるが、依然としてほとんどの家庭や企業は不安を拭えずにいる。歴史の教訓は、誠実な顧客対応――いつも変わらぬ堅実なサービス品質の提供――が、景気回復後の多大なる顧客ロイヤルティと市場シェアにつながる可能性を示している。
しかし、サービスの充実化はタダではできず、かといって財布に余裕がある人々はまだ少ない。たとえば現場スタッフの増員はコスト構造を圧迫するが、それをいま顧客に負担させるのは難しい。言い換えれば、お金をかけて顧客の面倒を見ても、それをカバーする利益が市場から得られる可能性は低い。では、その資金をどこからもってくればよいのだろうか。思いやりと卓越性に根差したサービスで競争するために必要なリソースを確保する、5つの方法を以下に紹介しよう。
1.抜くところは抜く
成功しているサービス企業は、すべてに優れているわけではない。不得意な部分もあるが(相当にひどい場合もある)、それは意図的なもので、顧客の優先事項にしっかり基づいている。サービスに優れた企業は、顧客が最も価値を置くものを十分すぎるほどに提供し、最も重視されないものについてはかなり手を抜く。ウォルマートは、最安値と豊富な品ぞろえを提供する代わりに、便利な立地や洗練された禅的な空間を諦めてもらう。店内の照明はいただけないが、どこよりもお買い得だ。あなたの顧客は、何を諦めてくれるだろうか。その代わりとして、何を差し出したらよいだろうか。