2.完璧なデータになるまで待たない
 データが不十分だったり整理できていないことを恐れて、行動を躊躇する企業が多い。しかし我々の経験では、成功している企業はあまり細かく考えすぎずに、とにかく着手してみるという傾向がある。実際には、ほとんどの企業がすでに必要なデータを持っている。問題は、それをどうまとめるかなのだ。

 必要なのは、データがどこに保存されているのか、それをどのように抽出して集計すればよいのかを知ることだ。それにより、複数のタッチポイントにおけるカスタマー・ジャーニーを把握できる。データが存在するシステムは、さまざまな機能部門によって管理されている場合が多いため、該当するオペレーション部門、IT部門、店頭販売部門、マーケティング部門などが一緒になってタッチポイントを見極める必要がある。官僚主義的な行き詰まりを打破するために、小規模の部門横断的な「SWAT」チームを結成する企業もある。作業開始時から、失敗を含めて実施内容を記録するとよい。その経験がチームの試行、改良、学習を加速させ、最終的にそのメリットを加速させることにつながるからだ。

 1例として、欧州のある大手エネルギー会社には、大量のデータがあったが、そのほとんどをWebチーム、コールセンター、マーケティング部門が抱え込み外に出さなかった。その結果、重要な洞察が部門間の溝からこぼれ落ちていた。そこでマーケティング部門とオペレーション部門がチームを組み、社内にすでにあったデータを利用して、顧客が転居した時に辿ったジャーニーを分析した。データパターンを調べると、転居だけで全解約の30〜40%を占めていることがわかった。顧客は古い契約を解約したまま、新しい居住地で更新していなかったのだ。

 同社はこれを受けて、ジャーニーにおける最も重要なタッチポイントで、顧客の要求にもっとうまく応えるべく対処した。コミュニケーションの仕組みを整備し、顧客がウェブ上で簡単な指示に従ってボタンを数回クリックするだけで契約を更新できるようにした。そのおかげで離反が40%減少し、ジャーニーにおけるクロスセルの機会も増えた。

3.報告より分析に重点を置く
 企業は、データから「すでに起こったこと」に関するレポートを作成することにばかり注力しがちだ。しかし原因と結果を特定し、予測を行うためにデータを分析するほうがはるかに大きな価値を生む。

 たとえばある銀行は、中小企業向け融資やサービス事業に伴う損失リスクの初期の兆候を発見するうえで、ビッグデータを利用する方法はないかと模索していた。不正対策チームは、タッチポイントのデータが示す顧客行動の微細な変化に疑問を抱いてはいた。しかしチームがタッチポイントの点と点を結ぶことで、銀行は初めて差し迫った債務不履行のリスクと高い相関関係にある行動パターンを発見できた。たとえば、ネットで口座をチェックする頻度の変化、コールセンターへの問い合わせや支店訪問の回数や目的の変化、融資限度額の変更などだ。銀行はそうした複雑なパターンを分析することによって、リスクの高い顧客を知らせる早期警戒システムを開発することができた。

 ビッグデータには、カスタマー・ジャーニーと提供価値を向上させる大きなチャンスが潜んでいる。必要なのは、本当に重要なことに的を絞る覚悟である。


HBR.ORG原文:Don’t Let Data Paralysis Stand Between You and Your Customers November 4, 2013

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マッキンゼー・アンド・カンパニー ミュンヘンオフィスのパートナー。顧客体験の大規模な変革を支援する。

 

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マッキンゼー・アンド・カンパニー サンフランシスコオフィスのアソシエイト・プリンシパル。顧客体験の変革に詳しい。