あなたの実績を最大限に強調せよ、というのが就職や営業における一般的な指南だ。しかし、人は評価対象の「過去の実績」よりも「未来への可能性」に魅力を感じることが、実験によって示された。その秘密は脳の機能にあるという。


 相手によい印象を与えるためのアドバイスは、世の中にあふれている。就職のため、昇進のため、あるいは儲けにつながる見込み客を味方につけるために、よい印象を持ってもらうにはどうしたらいいか。いわく、「セールストークを練習せよ」、「自信を持って話そう。ただし早口にならないように」、「アイコンタクトが大事」、そして何よりも、けっして遠慮してはならない。「自分の実績を強調しよう」。つまるところ、人の(あるいは企業の)実績こそ、採用を左右する唯一最大の要因だ。はたして、そうだろうか?

 あいにくだが、これは間違いだ。採用や昇進、取引の対象人物を選ぶ時、人は「大物」よりも、「次なる大物」を好むのだ。私たちは(意識下で作用する)偏見を持っており、すでに優れた実績を上げた人よりも、大きな潜在的可能性を持つ人のほうを優先するのである。

 スタンフォード大学のザカリー・トーマラとジェイソン・ジア、およびハーバード・ビジネススクールのマイケル・ノートンが実施した独創的な研究は、実績よりも潜在能力を無意識に好む私たちの性質をはっきりと示している。

 1つの実験では、被験者たちにNBA(全米プロバスケットボール協会)の監督役を演じてもらい、ある選手と契約するかどうかを決める権限があるものとした。評価材料として、対象選手の総得点数やリバウンド、アシストなどを含む5年にわたる優れた成績を示すデータを与えた。データは2種類あり、1つはその選手がプロとして5年間実際に残してきた実績を記録したもの、もう1つは今後5年の間に選手がどの程度の成績を上げられるか(すなわち潜在能力)を予測したもので、各監督はそのいずれか1種類を受け取った。

 その後監督たちに対して、「6年目になったらこの選手にいくら支払いますか」と尋ねたところ、選手の潜在能力を評価した人たちが答えた年俸額は、実際の優秀さを評価した人たちの金額に比べて、100万ドル近くも多かったのである(426万ドルに対して525万ドル)。さらに、潜在能力を評価した監督たちは、その選手が予測以上の得点を上げ、オールスター・チームに入れる可能性が高いと考えていた。