トーマラ、ジア、ノートンは、就職志望者の評価に関する実験でも同じパターンの結果を得た。この実験では、リーダーシップの実績判定テストで高い成績を上げ、適切な経験を有する志望者と、リーダーシップの潜在能力判定テストで高い成績を上げたが経験を持たない志望者の両方に対する評価を比較した(両者は他の点では同様の優れた経歴を持つものとした)。結果、評価者らは、リーダーシップ潜在能力が高い志望者のほうが、リーダーシップ能力が証明されている志望者よりも、新しい会社で成功できると考えたのだ。(ちなみに、「どちらの履歴書に感心するか」と尋ねたら、経験がある志望者だという答えが返ってくるだろう。それでも、選ばれるのはもう1人のほうである)。

 さらに別の実験では、実際に受賞歴のある美術作品や芸術家よりも、受賞する可能性がある作品や芸術家のほうが好まれることが示された。また、すでに名を成したレストランやシェフよりも、間もなく有名になる可能性がある店やシェフのほうが好まれた。そして、こんな巧妙な実験も行われた。独演ができる実在のコメディアンの広告を、フェイスブックで2種類表示し比較した。1つ目では、批評家が「次にくるのは、この男だ。誰もが彼のことを話題にしている」と表現した。もう一方では、「次にくるのは、この男かもしれない。1年後には、誰もが彼のことを話題にしている可能性がある」と表現した。結果、コメディアンの潜在的可能性に注目した広告のほうが、クリック数も「いいね!」も圧倒的に多かった。

 ちなみに、これは若年者を好む傾向の表れではない。たしかに、実績はないが可能性はあるという人物は年齢も若い場合が多いかもしれない。しかし研究者たちは実験において、年齢を慎重にコントロールしてそれが要因でないことを明らかにしている。

 実績よりも潜在的可能性を取ることはリスクが大きく、そもそも不合理だ。ならばなぜ、私たちはそうしてしまうのだろうか。研究で得られた知見によれば、成功の可能性は、すでに実証された成功と比べて「不確か」なために私たちの興味を引くということらしい。人間の脳は不確かなものに遭遇すると、それを理解しようとして情報により注意を払い、結果的により長時間、より綿密に脳内処理をすることになる。潜在能力が高い志望者は、実績がある志望者よりも私たちを深く考えさせるのである。その志望者に関する情報が好ましいものである限り、この深い思考が(無意識に)その人物(あるいは企業)への好印象につながりうるのだ。(「情報が好ましいものである」という点は重要だ。別の研究では、志望者が高い潜在能力を持っていることが示されても、それを裏づける証拠が乏しい場合は実績ある志望者のほうがはるかに好まれた。)

 こうした知見から得られる示唆は何か。自分を売り込む場合、直感的に適切と感じる方法とは違うアプローチを取る必要があるようだ。直感はおそらく間違っているのだから。人々は(自分で気づいているか否かにかかわらず)、あなたの実績ではなく可能性に感銘を受ける。個人であれ企業であれ、みずからを語る時は、過去ではなく将来に焦点を当てるほうが得策だろう――これまでの実績がいかに素晴らしいものだとしても。人々の注意を喚起し耳を傾けさせるのは、あなたが「これから何者になれるか」なのだ。だから、可能性を武器にする方法を学ぶことをお勧めしたい。


HBR.ORG原文:The Surprising Secret to Selling Yourself August 29, 2012

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