会計ソフトの世界最大手インテュイットは、自社に「問いかけの文化」を築くことでイノベーションを推進してきた。適切な問いが同社にどう成功をもたらしたのか。『イノベーションのDNA』の共著者ハル・グレガーセンが、その一端を紹介する。本誌2014年6月号(5月10日発売)の特集「最強の組織」関連記事、第5回。


「質問」が斬新な発想を引き出す可能性については、よく知られている。しかし、現状を大きく変えるためのカギ(そして課題)となるのは、「適切な」問いを見出すことである。破壊的な変化を実現するリーダーは、そうした強力な問いをどのように発見するのか。それを調べるため、私はハーバード・ビジネススクール教授のクレイトン・クリステンセンとともに、40名近くの著名なグローバル・リーダーたちにインタビューを行った。

 そのうちの1人に、会計ソフトウェアの最大手インテュイットの社長兼CEO、ブラッド・スミスがいた。彼は新たな「グランド・チャレンジ」を明らかにするための「最高の問い」を、どのように探すかを教えてくれた。グランド・チャレンジとはスミスの定義によれば、「それを達成するために、一歩下がってまったく異なる考え方をするよう求められる目標」である。

 しかし、グラント・チャレンジ(およびそれを解決する一連の取り組み)を見出すための問いかけは、革新的な事業戦略へとどのようにつながっていくのだろうか。以下でスミスがたどってきた問いかけの歴史と、それがインテュイットにどのような価値を生み出したかを紹介する。

問いかけの歴史

 質問は常にスミスの人生の一部だった。幼い頃、両親は彼に強い知的好奇心を思うまま発揮させ、口出ししなかった。仕事を始めてから、真に重要な核心に迫るために問いを利用するという方法を発見した。このことを気づかせてくれたのは、インテュイットの創業者で現代における最も魅力的な起業家の1人、スコット・クックだった。

「スコットはよく、質問に対して質問で応じてきます――それは、答えをそらしているのではありません」と、スミスは言う。「彼が用いているのは『5つのなぜ』のテクニックです。問いかけや答えの奥にある本質を突き止めるためです。ペプシで一緒に仕事をした偉大なリーダーたちも同じことをしているのを見て、これは有効だと私は思いました」

 革新的な問いかけは人の世界観を変え、感情を高める。スミスの表現を借りると、そうした問いにより「鼓動が速くなる」。この感情の高ぶりによって、彼は素晴らしい発見の一歩手前にいることに気づくという。そうした例として、彼はインテュイットにおける最近の2つの出来事を話してくれた。