しかし私は、ピンクの新刊を読み、「成功するには人を動かす能力が不可欠だ」という主張に対する友人の反応をこの目で見るまで、気づかなかった。多くの人々は、売り込みで人を動かす能力もまた生得的なものだと考えているのだ。なんたることだろう。

 もっと調べてみようと思い立ち、グーグルを開いた。「生まれながらのセールスマン(natural born salesman)」という言葉をネットで検索すると、50万件以上ヒットした。公平を期すために言えば、それらの検索結果には「人を動かす才能を生まれつき持っている人がいる」という誤解を否定する文章も多く含まれていた。しかし、否定する必要がこれほどあるのは、それだけ誤解が広まっていることの証しだろう。

 売り込むこと、人を動かすこと、説得すること、影響を与えること――これらが自分の仕事の一部であると認めたくない人は多くいる(または、そうした行為が仕事になるような立場を避ける)。なぜなら、自分にその能力がないと考えているからだ。学生時代、「数字に弱いから」と言って微分積分を疫病のように避けていたのと同じである。

 私の友人が「セールスは自分の仕事の一部」と考えたがらないのは、自分はセールスが得意ではないと思っているためだ。そしてもっと重大なのは、「自分はセールスがうまくなれない」と思い込んでいることだ。

 ここで、念のために述べておきたい。売り込みが上手な人々は特定の性格を備えていることを示唆する研究がある。たとえば誠実さや謙虚さ、ピンクが指摘した「両向的な性格」――極端に内向的または外向的ではないこと――などである。しかし重要なのは、「性格=生得的能力」ではないということだ。努力や経験によって、性格は確実に変わる。いま現在のあなたは変われるのだ。

 人を動かす能力を伸ばしたければ、その方法を学べばよい。それは魔法ではないし、生まれつきの能力でもない。生得的であるように感じられる時もたしかにある。しかしそれは、人々が経験と観察を通じて「無意識のうちに」効果的なやり方を学んでいるからである。自分が学んでいるということに気づいていないから、その能力が生まれつきであると誤解してしまうのだ。

 あなたは人を動かせるようになりたいだろうか? ならば実証データに基づく優れた本がたくさんあるから、1冊あるいは数冊を手に取ってみよう。

 前述したピンクの新刊(邦訳は講談社)はよい入門書になる。ロバート・チャルディーニの『影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか』(誠信書房)やダン・アリエリーの『予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』(早川書房)も効果的な説得戦略をたくさん紹介している。なお、私とトリー・ヒギンズの新刊Focus(ハドソンストリート・プレス)でも役に立つヒントをいくつか示している。

 本を読んで役に立つ知識を手に入れたら、次は実践だ。練習を重ねれば、すべてがより簡単に、自動的に、自然にできるようになる。この素晴らしい「人を動かす世界」を恐れる必要はない。あなたはすでに必要な資質を備えているのだから、あとは学んで実践してみるだけでよい。


HBR.org原文:Yes, You Can Learn to Sell February 19, 2013

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