人はなぜセールスをうしろめたく感じるのだろうか?それは偏見の奥に、自信のなさがあるからだ。売り込みや説得の能力は決して生得的なものではない。モチベーション科学の専門家である筆者の主張に通底するのは、「人は変われる」という強いメッセージだ。
人を巧みに、自信を持って説得するためには何が求められるのだろうか?
昨日、企業のバイス・プレジデントを務める優秀で働き者の友人とランチをともにした。私はダニエル・ピンクの新著『人を動かす、新たな3原則-売らないセールスで、誰もが成功する!』をちょうど読み終えたところで、ぜひ友人の意見を聞きたいと思った。
ピンクの趣旨を簡潔に言うなら、現代の職場においては「人を動かす」こと(セールスに加え、説得したり影響を与えたりすること)が、あらゆる人々の仕事に不可欠となっている。つまり、誰もがセールスを行っているということだ。この本の多数の読者同様、私もピンクの主張は過激で意外性に富みながらも、否定できない真実を突いていると思った。
とはいえ、誰もがピンクの主張に頷くわけではない。友人にとってもきっとおもしろいはずだと私は思ったのだが、そうではなかった。彼はひどく不愉快そうな顔をして、「くだらない」と言ったのだ。その言葉は、私よりもむしろ自分自身に言い聞かせるようだった。「僕はセールスマンじゃない。僕の仕事は戦略を立てること。騙されやすいカモを相手にしているのとはわけが違うんだ」
その態度は一見、「セールスマンは卑屈な人種だ」という偏見の表れに思われた(ピンクの本はこの偏見に正面から取り組み、見事に論破している)。売り込みという行為に対するちょっとした嫌悪感もあったのかもしれない。
これを買いなさい、これを信じなさい、と人を説得することは倫理的に正しいといえるのか。この懸念を持っている人は少なくない。効果的な説得が持つ力に対して、私たちは不安を感じるのだ。
だがピンクが指摘しているように、私たちは他人の言動に影響を及ぼすこと、自分が影響されることを避けて通れない。人間は動かされるものなのだ。大事なのは、本当に価値のあるアイデアや製品が、その影響力を行使できるようにすることである。
しかし友人が見せた不快感に、私はもっと根深い何かを感じ取った。人にいきなり代数の問題を出題すると、相手は文字通りのけぞって「いや、数学は得意じゃないから」などとモゴモゴつぶやいたりする。ちょうどそんな感じなのだ(ちなみに、私は仕事で実際にそういう実験をする)。
「成功するためには、生まれつきの大いなる才能が必要だ」――この広く蔓延している間違った考えを正すために、私は多くの時間を費やして著述や講演に努めている。
目標達成やスキルの習得に必要なのは、戦略と努力、根気であり、それらは後天的に身につけられる。これを疑う読者や聴衆には、データをどっさり示して証明してきた。学習可能な能力として私がよく取り上げてきたのは、知性、創造力、自制力などだ――そしてもちろん、数学の能力も。