一見壮大だが、まったく心に響かない、空虚なミッション、ビジョン、理念がいかに多いことか。無味乾燥で曖昧な文言、現実味の薄い言葉では人は動かない。トレードオフを厳しく問い、明確化された中期の戦略的意図を打ち出すべきである。


 まずは簡単なクイズをやってみよう。以下に示すのは「フォーチュン500」に属する3社と、それぞれのミッション・ステートメントである。どの会社がどのミッションを掲げているのか、予想してみてほしい。

●会社
1.AGCO:農業機器の製造・販売大手。トラクター、干草ツール、飼料・耕作の関連機器、交換部品を扱う。

2.ドーバー・コーポレーション:産業機器メーカー。ゴミ収集車、インクジェット・プリンターなどの電子機器、プリント基板の組立装置などを扱う。

3.ディーン・フーズ・コーポレーション:食品・飲料会社。主力事業は乳飲料、乳製品、大豆製品の製造。

●ミッション・ステートメント
A.優れた顧客サービス、イノベーション、品質、コミットメントを通じて収益性の高い成長を実現する。

B.顧客と株主の利益のため、製品・サービスを提供するすべての市場でリーダーの地位を確立する。

C.第一の目標は、事業運営に関する法律を順守し、常に最高の倫理基準を守りながら、長期的な株主価値を最大化すること。

 うまくできただろうか。答えは1-A、2-B、3-Cだ。どれも似たり寄ったりで特定の企業を想起することはまず無理だ。一部の界隈では依然として「ベスト・プラクティス」と見なされるかもしれないが、たいていはその目標を達成しない。皮肉なことに、企業が掲げる「指針」の多くは目的を遂げていない。進むべき方向性を示していないからだ。

 コンサルティングの常套手段ではあるが、最もありがちな指針の文言を以下のようなマトリクスに表すと、その在りようがわかりやすくなる。

 魅力的なビジョンやミッション、理念というのはたしかにある。しかしその内容はあまりに漠然としていて、人々の注意を引きつけない。一方、四半期目標は関心を集めるが、短期的な戦略目標は人の心を動かさない。

 この図が示すのは、魅力と具体性を兼ね備えたものがないということだ。ゲイリー・ハメルとC・K・プラハラッドによるHBR論文から言葉を借用すれば、必要なのは「ストラテジック・インテント」(戦略的意図)である。原文におけるその定義をさらに発展させて、私は企業幹部にこう提唱したい――野心的で測定可能な、3~5年の戦略的意図を1つ掲げるのだ。簡単なように思えるかもしれないが、臆病な者には正しく実行できない。このような戦略の明確性(strategic clarity)を生み出すには勇気、洞察力、先見の明が必要である。以下のガイドラインが参考になるだろう。