新規事業チームが企画段階でリソースを要望する時、幹部の返答が「曖昧な同意」であれば先は危ういという。公式の支援を取りつけるためには、プレゼンの最初の10分で要望を明らかにすることだ。新規事業のあらゆる局面を知るアンソニーならではの、実践的なアドバイス。
それは間違いなく、よくできた報告書だった。売上高数十億ドルを誇る多国籍企業の社内プロジェクトチームが、半年を費やし、同社にとって決定的に重要な新興国市場での成長戦略を作成していた。報告書の要約部分では珍しいことに、2つの要素が抜かりなく示されていた。説得力のある長期的な展望と、戦略上の避けられない不確実要素に対処する短期の具体的な行動計画だ。
50ページにわたる報告書の結論部では魅力的なストーリーが示され、その最後にささやかな要求が記されていた。半年間、4人の専任担当者を置き、25万ドルをかけて市場でのパイロット運用を行なうこと。プロジェクトリーダーは、この控えめな要望は難なく受け入れられるだろうと考えていた。
一連の流れは理に適っているように見えた。しかし私は、リーダーの期待通りに事が運ばないのではないかと懸念を持った。実際、「要望」を報告書の最後に持ってくると、大企業における「イノベーションの見えざる敵」に行く手を阻まれるリスクが高くなるのだ。その敵とは、「曖昧な同意」である。つまりこんな事態だ。幹部たちはイノベーション戦略の大筋を聞いて興奮し、その場では熱心に支持の意を示す。しかし実際には、目に見える形で経営資源を(どんなに僅かでも)与えることはしない――。
今回、幹部たちが躊躇するのは、4人の専任担当者を置くことだろうと私は思った。費用ならどこかしらの予算を割り当てることはできるし、財務的な制約をうまく潜り抜けながら新規アイデアを進める方法も見つかるものだ。だが人が1日に使える時間は限られている。経営陣はたいてい、人を新たに雇うのを嫌うものだ(「この計画がうまくいかなかったら、どうするのか」というのがその言い分だ)。また、優秀な人材を中核事業の重要任務から引きはがして、リスクのあるイノベーション案件へと異動させることも嫌がる。
専任を設けるよりも、本来の任務で忙しい人に新たな仕事を兼務させるほうが、幹部にとっては安心できる。だが多くの場合、頼まれる従業員の報酬は中核事業での成果に結びついている。したがって兼務に合意はするものの、不確実な案件に取り組むよりも、実際に報酬の源泉と考えている仕事のほうを優先しがちとなる。
このように、曖昧な同意の下では、人々は新規事業チームの要望に形だけは合意するものの積極的には支援しない。そうなると、イノベーションの取り組みは遅々として進まず、経営陣の関心を維持するだけの進捗が精一杯で、目に見える成果は生まれない。
曖昧な同意を避ける1つの方法は、毎回の検討会議の早い段階で――開始後10分以内に――経営資源の要望を明らかにすることだ。要求事項を具体的に示し、その理由を論理的に述べる。投入された資源を経営陣がチェックできるように、評価尺度を詳しく説明する。計画通りに進展しない場合の対応策も用意しておくとよい。新たに人を採用するならば、計画が中止された場合にその人材を別の部門に再配置できるかもしれない。あるいは人材を期間限定の契約で雇ってもよい。そして検討会議の最後には、経営資源の要求を再度述べる。口頭で同意が得られたら、その要旨を文章に起こして関係者に送り、同意を確実なものとする。
やり過ぎのように思えるだろうか。だが、覚えておいてほしい。企業というものは放っておけば、将来の事業の創出ではなく、既存事業の遂行に徹するものだ。狙いを明確にし、首尾一貫した説明を示し、公式な合意にこだわり続ける――これこそが、必要な時に必要な経営資源を得るための方法なのだ。
HBR.ORG原文: Avoiding the Soft "Yes" July 17, 2013
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スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイト マネージング・ディレクター
ダートマス大学の経営学博士・ハーバード・ビジネススクールの経営学修士。主な著書に『明日は誰のものか』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(共著)などがある。