どの企業も本当なら高めの価格を設定したいが、現実にそれが実行できないジレンマ。プライシングほどセンシティブで神経を使う意思決定はない。他社に倣うプライシングからの脱却する方法を見直したい。
日本企業の生産性の低さは、長時間労働だけが要因か
先日、元コンサルタントの方と仕事の生産性について話していました。日本企業では、仕事の効率よりも働く時間の長さが評価されがちで、それが労働時間の長さと生産性の低さを助長しています。既存事業の閉塞感を打ち破るには、ハードワークが求められますが、ハードワークの概念を「量」ではなく「質」でとらえない限り、生産性は低いままです。
こんな意識を持っていた私に対し、元コンサルタントの方は異なる視点を提示されました。それは「日本企業は価格を低く設定し過ぎる」というものです。日本企業の製品・サービスの木目の細かさは改めて言うまでもなく、消費者の痒いところに手が届くほどの丁寧さです。コンビニで売られているオニギリのパッケージしかり、百貨店の受付サービスの丁寧さしかりです。ガラパゴス化と言われる現象の一環でもありますが、世界に冠たる品質を誇っているのは間違いありません。過剰な品質が問題になることがありますが、一方でそれに見合った価格設定をすれば、付加価値を利益に結び付けることができるはずです。
品質を高いレベルまで追求しようとする姿勢が長時間労働につながる面は否定できません。しかし細部に拘る美学を否定するより、それを生かす仕組みを考えるほうが得策でしょう。細部まで丁寧な作りこみをした製品・サービスを提供するなら、それに見合った価格を設定すればいい。生産性の概念は、投入量における産出量の割合ですから、同じ投入量(労働)で産出量(利益)を高めることができれば生産性は向上します。
かと言って、日本企業が価格を高めに設定できない要因は競争環境が大きいでしょう。同じような商品を他社が低めに価格設定していれば、ブランド力など特定の要因がない限り、自社だけ高い価格設定にすることは不可能です。価格競争はゲーム理論における「囚人のジレンマ」の状況です。協調戦略をとることが参加者全員の利得につながることが明らかでも、個々の意思決定に協調戦略をとるインセンティブが働かない。つまり、他社に先駆けて高価格をつけるインセンティブがどの企業も持ち合わせていない構造です。