容易な値下げは問題の先延ばし

 このような中、いかにして利益を最大化するプライシングができるか。これが最新号のテーマです。プライシングにおいて利益を拡大する手法は値上げだけではありません。バンドリングによる付加価値の増大、実質的な利益からプライシング体系全体を見直すポケット・プライシング、商品体系に柔軟性をと入れる適応型プライシングなど、最新号ではこれらの手法と事例が紹介されています。

 価格競争という囚人のジレンマを解消するカギの1つは、ゲームを繰り返すことです。1回の協調戦略(値上げ)は他方の裏切り(値下げ)に勝つことはできませんが、他者の協調に追随する企業が、複数回ゲームの勝者となることが明らかになっています。値下げは1回のゲームでは勝者になりますが、長期的には利得を大きくできない戦略です。競合他社に値下げというメッセージだけでなく、利益を犠牲にしないプライシングの姿勢を見せることで、長期的にはゲームの構造が変わりうると考えます。

 今年の4月から消費税の増税がスタートしました。他方で原油価格の高騰もあり、消費者の財布の紐が固くなっている局面でいまこそプライシングが問われています。単純な価格競争に陥ると勝者なき消耗戦の様相を呈し、中長期的に業界が疲弊しています。このような悪循環を断ち切るためにも、プライシングへの取り組みはいま一度見直すべき重点課題と言えます。

 生産性の議論で言えば、プライシングこそ優先的業務としてハードワークすべきでしょう。ここに投じた時間(投入量)は大きな利益(産出量)を伴う可能性が高いのです。(編集長・岩佐文夫)