マーケティング業界では、広告とPRの統合が叫ばれて久しい。しかし本来この両者はまったくの別物であり、違いを理解せずに統合してしまうと、狙ったマーケティング効果は得られない。博報堂でPR業務を担ってきた加藤昌治氏がPR発想とは何かを7つの視点から指摘する。


 広告と広報との統合、が語られ始めてから何年が経ったでしょうか。「戦略PR」なるワードの登場もあり、今日では、マーケティングプランを立案そして実行するにあたって、PR的な要素を組み入れることはいたって普通のことになってきました。職種を超えて、広告に関わる人たちが「ぴーあーる」と口に出さない日はないのではないか? と思うほどに。その一方で、「PR」が大きく曲解されていることも事実だと感じています。広告的な発想でPRプランニングをする、といった誤解にもとづく施策も多く散見されるのかな・・・と思うのです。

 では「PR発想」とは何か? 旧来型の広告発想との違いはどこにあるのだろうか? 単なるパブリシティにつながる企画、ではないところに近づくためのヒントでもありましょうか。PR発想を理解するには次の7つの視点が求められるでしょう。

視点1:PR発想とは、「磁石を探すこと」である。

加藤 昌治
(かとう・まさはる)

株式会社博報堂PR戦略局統合プラニング三部部長。
1994年に博報堂入社。多数の民間企業の新商品発売、新事業開始等のマーケティングPR領域と、M&A、事業統合、社名変更などのコーポレートPR領域の広報企画立案および実施を経験。2010年より現職。2005年度に日本PR協会主催の「PRアワード」でグランプリを受賞するなど多数の受賞歴を持つ。主な著書は『考具』(阪急コミュニケーションズ)、『アイデア会議』(大和書房)、『アイデアパーソン入門』(講談社)、『企画のプロが教える「アイデア講義」の実況中継』(サンマーク出版)。

 磁力は、人を引き付けます。広告であれば、その磁力は商品やブランドに内在されているものであり、その磁力を広告として明らかに提示することが発想の基本。PRにおける磁力は、もちろん商品・ブランドにあるケースも多々ありますが、それにプラスして、「商品と生活者、あるいは社会の間にある磁石を発見すること」が価値を生みます。磁石ですから、近くに寄れば、つまり情報を知ることで自然と引きつけられてしまう。PR発想の本質は、商品だけに内在しない磁石を、商品発売に先立って顕在化させておくことで、広告とは異なるアプローチ、あるいは引力を発生させる仕組みを作ることだ、と云い換えられます。

 実際のマーケティング業務では、この磁石の持つ磁力が、有効期限の視点から、大きく3種類に分類されるでしょう。まず一つめ、効き目が短いもの。これは「話題」を喚起する磁石です。瞬発の情報発信力、拡散力はあるけれども、長続きしないタイプの企画。商品の魅力がもうひとつ社会の現状にマッチしていない場合などに多くみられるケースかと思います。もう少し効き目が長くなると、それは「ブーム」になります。旧来型の広告キャンペーンが3か月程度だったことからすれば、かなり長めのマーケティング成果につながります。クライアントの期待が高くなることもうなづけます。そして最後に「習慣」にまで磁力が続く場合。習慣を変えるに一番手っ取り早いのは、法律を変えることだ、なんて意見もありますが、マーケティング上のイノベーションは生活習慣を変えてしまうこともできます。広告だけで行わず、PRの力を加えたならば、より早く、よりコスト効率よく、こうした成果につながると思います。

 そして企業と社会の間にある磁石を探すには、その双方をよく見ていることが発見への近道。マスメディアを含めたメディア、そして生活を知ることがPR発想の基本にあります。近頃、広告パーソンも新聞を読まなくなったとも聞きますが、それだと・・・です。