世界の人材獲得競争ではたして日本企業は勝てるのか。インド工科大学(IIT)での人材採用にかかわる著者が、受け入れる日本企業の課題を紹介する。人気連載の最終回。 

日本企業に魅力を感じる学生は多い

第1回第2回でお話ししたとおり、インドで最高峰の頭脳とされるインド工科大学(通称:IIT)の学生たちは、名だたるグローバル企業から入社を請われます。そうした中、初めは彼らの視野には日本企業はほとんど入っていないのが現状です。しかし、それは単に「情報がないから」に過ぎません。

 私は学生たちとコミュニケーションをとり、「日本企業、どう?」と投げかけ続け、魅力を伝えるためのヒントを探ってきました。学生の反応は、多くの場合、「何だかすごそうだとは思う」といった様子です。小さな島国でありながら、ソニー、トヨタ、ホンダなどの企業を生み出した技術大国。エンジニアを目指す学生にとって憧れの対象であり、魅力を感じてくれていることは間違いありません。しかし、「漠然とした憧れ」にとどまり、就職先の選択肢としては具体的イメージされていません。

 しかし、「こんな企業がこんなポジションで君たちを求めている」と正しくまっすぐにアピールをすれば、たちまち興味を持ち、真剣に検討を始めます。

 では、実際に日本企業への就職を検討したり、応募した経験を持つ学生たちは、どんな点に魅力を感じ、どんな点に不満を抱いているのでしょうか。 

日本企業の「教育」を高評価。「キャリアパス提示」に不満

宮武 周平
(みやたけ・しゅうへい)

株式会社リクルートキャリア
新卒事業本部 WORK IN JAPAN推進グループ
新卒でサイバーエージェントに入社し、WEBプロデューサーとして従事。2009年リクルートに中途入社。Media ProducerとしてSUUMOの立ち上げに関わった後、11年4月に今度は世界を舞台に企画をしたいと希望して、アジア圏の新卒学生と日本企業をマッチングする新卒人材紹介サービス『WORK IN JAPAN』の企画担当に。

 日本企業の魅力の1つとして彼らがよく口にするのは「教育システム」です。「入社後すぐに即戦力として活躍したいから欧米企業がいい」という学生ももちろんいますが、「日本の充実した研修・育成制度のもと、ビジネスの基礎を一から身に付けて成長したい」と希望する学生も少なくありません。

 一方、日本企業に対して不満を感じる点の1つは、「キャリアパスの曖昧さ」です。日本企業では「総合職採用」が根づいていますね。採用選考の時点では配属部署は未定、入社後にいずれかの部署で経験を積ませて、適性や成果を見つつ次の方向性を考える――それが当たり前の習慣となっている企業が多く見られます。

「御社で広報マネージャーになるにはどうすればいいですか?」と学生から聞かれたとしても、明確に道筋をたてて説明できる人事担当者はなかなかいないのではないでしょうか。

 インドの学生には、このスタンスは通用しません。3年後・5年後などそれぞれのタイミングで、「この目標をクリアし、これができるようになれば、このポジションとこれだけの報酬が与えられる」というキャリアパスが明示されなければ、入社を決意するには至らないのです。これはインドの学生に限らず、他の国における新卒者採用にも共通するポイントです。欧米企業の場合、少なくともまずは30歳くらいまでのキャリアの道筋を明確にした上で学生にアプローチをするケースがほとんどです。