私がさまざまな文化的背景を持つマネジャーたちと行ってきた面談でも、同じ傾向が確認できる。北欧人やアングロサクソン人は概してアメリカ人と同じ思考パターンを示すのに対し、東アジア人はニスベットと増田の実験における日本人や台湾人と似たような反応を示すのである。

 これは驚くべきことではないかもしれない。西洋の哲学や宗教における伝統的な考え方の1つに、物事は環境から切り離して分析できる、というものがある。研究者はこれを「特定的(specific)」な思考と呼ぶ。

 それに対し、中国の宗教や哲学では伝統的に、相互依存性や関係性が重視されてきた。古代の中国人は「包括的(holistic)」な考え方を持ち、物事は複数の力が働く場のなかで起きると信じていた。たとえば「陰」と「陽」という言葉は、一見正反対のように見える力が相互依存関係にあることを表している。

 前述の魚のアニメーションと写真撮影の研究について中国人たちと話し合った後で、参加者の1人がこう言った。「中国人は大きなものから小さいものへと考えますが、西洋人は小さなものから大きなものへと考えます。たとえば住所を書く時、中国人は省、都市名、地区、街区、番地の順に書きますが、西洋人はその逆に書きます。名前も同じで、中国人は名字を先に言いますが、西洋人は反対です。日付も、中国では年、月、日の順です」

 このことは、世界各地のビジネスパーソンがお互いをどう見ているかにも影響を与えている。韓国の自動車メーカー、起亜自動車に勤めるバエ・パクは私にこう話してくれたことがある。「西洋人の同僚と仕事をすると、他の部署やクライアント、サプライヤーへの影響を考えずに物事を決めてしまうことがあって驚いてしまいます」

 ポーランド人のマネジャー、ヤツェク・マレツキは以前にこんな経験を話してくれた。「日本人スタッフに会いに初めて日本を訪れた時、いつも自分がやってきたように目標設定のプロセスを進めました。チームのメンバーを1人ずつ自分の部屋に呼んで打ち合わせを行い、その人の個人的な目標を説明したのです。彼らが主題にさほど直結しない質問をたくさんすることに私は気づきましたが、私のやり方が日本人にとって最善ではないことを説明してくれた人はいませんでした。だから、うまくいったという間違った満足感を感じながらポーランドに帰ったのです」

 その後マレツキは、チームのメンバーが長い時間を割いて互いに相談し合ったことを知った。各メンバーがどのような任務を任されたのか、個々人の目標がチーム全体の目標にどう関わっているのかを知ろうとしたのである。「チームの仕事ははかどりましたが、私が設けた分担通りではありませんでした」

「特定的な文化」に属する人々はたいてい、個々人に何が求められているか、きわめて詳細かつ限定的な情報を受け取ることを好む。この文化を背景に持つメンバーには、その個人がいつ、何を達成すべきかに焦点を合わせ指示を与えるようにしよう。一方、「包括的な文化」出身のメンバーを管理し、説得したり意欲を引き出したりする時には、まず全体像を示し、個々の仕事がどのように組み合わされるかを説明することに時間を取るとよいだろう。

 さまざまな文化の出身者から成るグローバル・チームでは、こうした考え方の違いが混乱や非効率、不満の原因となる場合がある。しかし、チームメンバーの多様性が高いほどイノベーションの可能性も大きい。あるメンバーは魚を見て、別のメンバーは水槽を見ている――このことを理解し、特定的アプローチと包括的アプローチ、それぞれのメリットを慎重に考慮すれば、文化の違いをチームの最大の強みに変えられるようになる。


HBR.ORG原文:Are You a Holistic or a Specific Thinker? April 3, 2014

■こちらの記事もおすすめします
異文化でリーダーシップを執る日本人の育成は喫緊の課題
チーム内の異文化出身者を孤立させてはならない

 

エリン・メイヤー(Erin Meyer)
INSEADの客員教授。異文化マネジメントに焦点を当てた組織行動学を専門とする。同校で企業幹部向けプログラムのディレクターを務める。