HBSのマルコ・イアンシティ教授は、著書”Technology Integration(技術統合)”の中で、開発組織全体を俯瞰し効率的な技術開発・製品開発を行うためには、川上の要素技術開発と川下の製品開発との間を統合する技術統合チームの存在が必要であるとした。技術統合チームは一人の強力なマネジャーが担う場合もあれば、複数のマネジャーによるチームである場合もあると述べている。

 イアンシティの技術統合チームと同様に、デザインと製品開発との間の統合も、強力な個性と調整能力を持ったデザイナーが一人で担う場合もあれば、クリエイティビティを発揮するデザイナーとデザイン・コンセプトの一貫性を保つ調整役によるチームによって統合を実現しても構わないだろう。むしろ、高度な職業的専門性が求められるデザイナーに対して、同時に組織間調整を行うマネジャーとしての高い能力を要求することは酷かもしれない。デザイナーとデザイン・コンセプトのマネジメントを行う複数の担当者からなるデザイン統合チームが、重量級な権限を持つというスタイルの方が現実的かもしれない。

 また、デザイナーが技術にコミットすることは、製品の模倣困難性を高め差別化戦略を強化することにもプラスになる。デザインは知的財産権の一つとして意匠権登録で守ることができる。しかし、現実には後発メーカーがデザインを盗用するということは日常的に行われ、意匠権侵害として法的手続きをとったとしても、司法判断が下される頃にはそのデザインは既に古いデザインになっており、それ以上権利を守る価値がなくなっていることもある。意匠(デザイン)は主観的で定性的なものであるから、どれだけ類似しているかという判断に時間を要するため、このような事態が生じる。

 このような場合、単にデザイン性が優れているというだけでは、デザインの価値を守ることができないかもしれない。しかし、デザイン・アイデアの実現に技術的制約が存在し、その制約を乗り越えるために新たな技術的な問題解決を行ったとすれば、デザインを実現する技術は特許としてより客観的で形式知的な権利として保護することができる。デザインと技術を統合することは、デザインの模倣困難性を高める上でも有効であるといえる。

 

注)同論文は1995年のMITスローン・マネジメント・レビュー春号に掲載。