「ピアデータ」とは、顧客に他者との比較を示すデータを指す。ピアデータを基に仲間どうしで切磋琢磨できる機能を製品・サービスに組み込めば、顧客の行動を変えられる可能性が高まる。その基本的な方法を、事例とともにわかりやすく解説する。


 新たな製品の投入というのは本質的に、人々に行動を変えるよう促す行為である。多くの企業は、新製品の機能的な利点が従来品よりもはるかに魅力的であると示すことで、それを実現しようとしている。だがこのアプローチがうまくいくことはめったにない。結局のところ、子どもの頃に「野菜のほうがデザートよりも体にいいのよ」と母親に言われただけで、野菜を好んで食べた人は何人いるだろうか。

 だが、野菜を食べろとけしかけたのがあなたの親友だったなら、すぐに受け入れたのではないか。あるいは5年生のクラスで、ブロッコリーを食べることが突然ブームになったとしたら?

 人々の行動を変化させ、新規カテゴリー製品の成長を促す大きな可能性を秘めた手段として、ピアプレッシャー(仲間からの圧力)を活用する新たなソーシャルデータが注目を集めている。ピアプレッシャーのデータが有効なのは、製品の機能を実証するにとどまらず、私たちが心の底で強く抱えながらも自分では気づいていない、感情的・社会的ニーズを満たすからである。

 いまやご存じの方も多いだろうが、たとえば米国の各地の電力会社は、ピアプレッシャーを利用してエネルギー消費量を抑えようとしている。電気料金の請求書に、近隣の家と比較して当人のエネルギー消費効率がどの程度よいかを示す表を載せているのだ。これらのデータシステムを開発したオーパワーやマイエナジーといった企業は、データと社会的な圧力の組み合わせにより家庭でのエネルギー使用量が減ることを、調査で明らかにしている。

 ピアデータはまた、適切な方法で提示されれば、消費者の金銭的な習慣を変えるのにも効果がある(貯蓄率の向上を促すなど)。ボヤ・ファイナンシャル(旧ING米保険部門)の〈CompareMe〉というアプリケーションは、調査データを利用して、退職後のための貯蓄率を同じ所得層の他者、そして州内の平均と比較することで増やせると謳っている。パトナム・インベストメンツは、401K(確定拠出年金)のクライアント向けに、退職後の貯蓄をピアグループと比較する〈How Do I Compare?〉という機能を開発した。人々に貯蓄を促すうえでピア効果が有効であることは、学術研究によっても示されている(英文PDF)。

 次に、活動量と睡眠を測る〈フィットビット〉を初めて購入した消費者が、そのアプリケーション上で「友達」タブを見た時のことを考えてみよう。ユーザーは、友人や同僚の1週間の歩数がランク付けされる友好的な競い合いに参加するよう、いきなり招待される。ランキングの典型的(そして理想的)な例は以下のような感じだ。

 企業がしのぎを削るウェアラブルは多種多様なピアデータを提供し、市場に出て久しい従来型の活動量計や歩数計とは一線を画している。これまで小さくて活気のなかった製品カテゴリーが、ピアデータの力によってホットな分野に変わったということだ。活動量計の年間売上高は、2017年には4500万台を上回るとする予測もある(関連記事)。しかしこの数字は、今秋発売と見られるアップルの〈iWatch〉にフィットネスの記録機能が加わる可能性を考えると、明らかに低すぎる。一部の専門家は、iWatchの初年度の売上げは6000万台を超えるものと見ている。