自社の顧客の行動を変えるためにピアデータ活用の可能性を検討する際には、以下のポイントを押さえておくとよい。

●どの行動を変えたいのかを、明確にする
 これは単純明快に聞こえるが、明瞭な戦略を持つ企業にとっては実際にそうだろう。たとえばウォルグリーンズは、自社の使命を「薬局の運営」から「人々の健康全般の向上」へと幅を広げたため、人々がもっと運動してより健康に暮らすことを必然的に望むはずである。したがって、ピアデータを活用して消費者に運動量の向上を促すことは、同社にとって明らかに望ましい。

 ただしこれほどシンプルなケースでも、次のステップはそれほど単純ではない。

●人々が行動を変えるきっかけとなるような、機能面、社会面、感情面のニーズを効果的に満たす方法を見つける
 このような果たすべきタスクを見つける最善の方法は、消費者の現在の習慣を観察することである。たとえばウォルグリーンズは、顧客が値引きによって購買意欲をかき立てられる様子を観察してきた。だからこそ同社は、ロイヤルティが割引ポイントに還元される〈バランス・リワード〉プログラムを実施している。その一環として2013年に〈ステップス〉プログラムを立ち上げた。〈フィットビット〉や〈アップ〉のユーザーが自分の機器をウォルグリーンズのアプリに同期できるようにし、1マイル歩くごとに20ポイント得るものだ(250マイル〈約400キロ〉で5ドルの値引きとなる)。ピアデータを活用するために、このアプリはステップスに登録している知り合いをツイッターやフェイスブックを通じてグループに招待できるようにしている。

●どのデータを共有させるか選択する際には、人々のプライバシーに対するニーズと、公に共有したいという欲求とのバランスを取る
 これは線引きが難しい。ウォルグリーンズの顧客は歩数は共有できるが、カロリー摂取量は共有できないようになっている。場合によっては、すべてのデータを匿名にすることが最善の手法であろう(エネルギー企業がそうしているように)。あるいはフィットビットのように、共有する内容をユーザーが決められるようにすると効果的かもしれない(望まない場合は共有機能をオンにしなければよい)。

 そんなことは当然だろうと思われる方は、次の教訓的な出来事について考えてみていただきたい。マサチューセッツ州のある小学校が、ピアプレッシャー活用の一環として、全生徒のテストの点数をフルネームで掲示した。低い成績の生徒を奮起させて、もっと勉強させようというのが狙いだ。不幸なことに、以前試されたことのない、不確かな前提であった。しかも、学校は点数の掲示について事前に生徒や保護者に告知せず、ましてや名前と点数を関連付けない選択肢もなかった。当然のことながら、(生徒や保護者、教師からの)不平不満が相次ぎ、生徒の意欲も喚起されず、取り組みは中止となった。翻ってウォルグリーンズのステップス・プログラムは幅広く受け入れられており、ほとんど宣伝をしていないにもかかわらず、これまでに130万人が登録している。

●実行可能なデータにする
 自宅よりも近隣の家のほうが、電気の使用量がはるかに少ないことがわかったとしよう。このことが省エネに対する当人の意欲をかき立てたとしても、どうすれば実行できるか知らせる必要がある。人々を動機づける際には、最終的に向上へと至るための、あるいは仲間どうしでレベルを高め合うためのステップを考案しなければならない。ウォルグリーンズはステップス・プログラムの一環として、ウォーキング以外にも健康を維持する方法をアプリとウェブサイトで提案している(健康維持に役立つさまざまな製品・サービスの紹介も含む)。

 近い将来、ピアデータを示すだけでは十分ではなくなる時が来るだろう。SNSの〈フィットクラシー )はその先を行き、個々のユーザーに合わせて運動・食事プログラムを作成する人間のコーチを割り当て、目標への進捗を測定するとともに、仲間の進捗と比較してくれる。こうしたプログラムの新規性を考えると、革新的な会社がポジティブなピアプレッシャーの力を活かし、私たちを思いもよらない行動に導く方法を編み出す可能性は大いにある。


HBR.ORG原文:The Persuasive Pressure of Peer Rankings May 13, 2014

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ロビン・ボルトン(Robyn Bolton)
イノベーション戦略を専門とするコンサルティング会社、イノサイトのパートナー。