マイクロソフトでの要職を経てアップルの幹部を務めるビル・ライリーが実践する、ストレスへの対処法を紹介する。深呼吸、瞑想、傾聴、自問、専念――どれも驚くほど単純なことだが、組み合わせれば効果絶大であるという。本誌2014年9月号(8月11日発売)の特集、「一流に学ぶハードワーク」関連記事。
ビル・ライリーはすべてを手に入れていた。ウエストポイント(米陸軍士官学校)で学位を取得し、マイクロソフトでマーケティング担当幹部を務め、強い信仰心を持ち、素晴らしい家族生活を送り、潤沢な財産を手にしていた。義理の両親とさえうまく付き合っていた。ならばその間、夜もほとんど眠れぬほどのストレスと不安を抱えていたのはなぜだろうか。この数年間、私はビルと一緒に仕事をしているが、彼の経験は有能で意欲ある人たちの参考になると我々は考えたのでここで紹介したい。
かつて、ビルにとってはどんな成功も十分ではないようだった。ウエストポイントでは、問題を解決するにはどんな苦しみにも屈しないことだと学んだ。しかしこのアプローチは、ストレスの軽減に対しては功を奏しないようだった。2度目のマラソン大会出場で目標のタイムに数分遅れた時、ビルは敗北感を味わった。そこで「事態を改善する」ために、5週間後に次のマラソンに参加した。だが彼の体はこのアイデアを受け入れず、前のタイムよりも1時間遅れでゴールした。ついには彼の妻が、ストレスの真の原因を突きとめなさいとビルを説得した。
その後の数年間、ビルは人生の行路にもっと多くの喜びを見出す術を探し続けた。そして以下の5つの方法を見つけた。1つひとつは何の変哲もないものだが、組み合わせると人生を変える力をもち、やがて彼にアップルの幹部としての成功をもたらすまでになった。
●深呼吸する
ビルは小さな努力から始めた。自分のデスクに座るたびに、3回深く呼吸をする――これがリラックスにつながることを発見した。3回の深呼吸が習慣になると、1日2~3分間に延ばしてみた。そうすることで、自分がより忍耐強くなり、落ち着きが増し、目の前の瞬間に集中できることに気づいた。いまでは1日30分行っている。この呼吸法を通して、自身のビジョンを再認識するとともに、疑問や問題を別の視点から見つめ直して新たな解決策を思いついている。深呼吸は数千年にわたりヨガの修練の一部であった。そしてハーバード・メディカルスクールのマサチューセッツ総合病院で実施された最近の研究では、深呼吸は身体のストレス対処能力を高めることが報告されている(英語論文)。
●瞑想する
瞑想とはヒッピーたちのやることではないか――ビルは最初、そう思った。だが、スティーブ・ジョブズ、オプラ・ウィンフリー(全米で人気のテレビ番組司会者)、マーク・ベニオフ(セールスフォース・ドットコムの会長兼CEO)、ラッセル・シモンズ(ヒップホップ専門の音楽レーベル、デフ・ジャムの創設者)といった著名な顔ぶれが瞑想を実践していると知り驚く。この事実に背中を押された彼は、まず1日1分から始めた。その瞑想法は、頭のてっぺんからつま先に向けて、意識とエネルギーを各部位に順番に集中させていく「ボディ・スキャン」である。ハーバード・メディカルスクールの最近の研究では、瞑想を8週間程度続ければ、感情の制御と学習をつかさどる脳の灰白質が実際に増加しうることが示されている(英語論文)。つまり瞑想の実践者は、感情を制御する力と脳の力をともに向上させていたのだ。