組織にイノベーション能力を根づかせるには、CEO自身がイノベーターである必要はない。イノベーションの規律と環境を保つ「まとめ役」こそ業績を牽引することが、ニールセンの調査によって示された。


 企業がCEOを交代させる時に重視する要件の1つは、イノベーションの推進能力である。しかし後継CEO候補の推薦を担う委員会は、スティーブ・ジョブズのようなイノベーションの帝王が見つからない場合、人選に苦労することになる。

 私はニールセンの上級幹部を務めていた時、およそ30社の消費財メーカーに対する調査を実施した(英文の概要はこちら)。そこで判明したのは、企業はジョブズではなく「イノベーション・オーガナイザー」を探すべきだということである。

 イノベーション・オーガナイザーの任務は、イノベーションが起こりやすい環境を整えることである。これは「新しいアイデアを歓迎する」というような、曖昧で耳触りのよい原則を掲げることではない。イノベーションを推進する具体的な条件と行動、体制を確立することだ。それには次のようなものがある。

●新しい製品・サービスの開発に直接関わらず距離を置く
 直感に反するかもしれないが、ニールセンの調査結果によれば、CEOを含む経営幹部が新しい製品・サービスの開発に関わると、新製品による収益が80%も減少することが示された。経営幹部は組織を理解し率いることは得意でも、顧客ニーズから遠く離れてしまっているため、新製品に関しては判断を誤る可能性が高い。必要なのは、オーガナイザーとして、イノベーションの最も近くにいる人材が意思決定できるよう体制を整え、彼らへの批判をなくすことである。

●意思決定の基準が明瞭かつ具体的に定められ、常に改善され、厳守されるよう万全を期す
 ニールセンの調査によれば、リーダーがこのルールを組織に徹底させている場合、新製品による収益が平均で実に130%も多いことが示された。今日の企業ではほとんどの場合、意思決定の基準が存在していても不完全なままである。個人間の暗黙の了解で物事が進められ、他の関係者が置き去りにされる。イノベーション・オーガナイザーの役目は、意思決定の基準を明確化・明文化し、それを守ってもらうことだ。このプロセスを定期的に検証し、ルールが無視された場合は強制的に介入する。また、チームメンバーや他の幹部が製品開発において持論を押し通そうとするありがちな言動に注意し、問題があればストップをかける。ことイノベーションに関する限り、エリートの特権は認めるべきではない。経営幹部であっても、組織共通の基準を尊重し遵守しなければならない。

●イノベーションのプロセスを複雑にしない
 開発プロセスにおいて、次の工程に移行してよいか評価を行う「ステージゲート」を例に考えてみよう。最も評判の高い企業でも、ゲートを5~7ほど設定している場合が多い。しかし我々の調査によれば、最適なのは2~3であり、それ以上ゲートが多いと新製品の収益は40~70%も低いことがわかった。イノベーションを成功させるためには、分析や構造化されたプロセスと自由な探求との間でバランスを取ることが必要だ。