●事後の検証で真実を明らかにする
消費財メーカーの8割において、新製品が成功すると、誰もがそれに貢献したと思われたがるわりに、うまくいかなかった部分を詳しく調べる人はほとんどいない。一方、新製品が失敗した場合、誰もが大きく後ずさって関与を避け、よかった部分を見ようとしない。成功はキャリアを前進させ、失敗はキャリアを傷つけることを考えれば、当然の反応ではある。しかしイノベーション・オーガナイザーは、何が実際に起こったのかを見極め、隠れた真実を明らかにしようと努力する。たとえばピクサーがそうだ。同社は毎回新製品を送り出した後、体系化されたデブリーフィング(事後報告)を公式に実施し、うまくいったことと改善の余地があったことを洗い出している。
できれば外部の人間にファシリテーターとして議論と分析をリードさせ、そこで得られた知見はナレッジ・マネジメントによって組織に定着させる必要がある。デブリーフィングを制度化している企業では、新製品による収益がおよそ100%増えることが示された。前述した要件をすべて実践すれば、新製品による収益は控えめに見積もっても200%増加することになる。
●ブレークスルーを目指すイノベーションの取り組みは、本社から離れた場所で行う
(改善ではなく)変革を目指すイノベーションのチームを社外に置いている企業は、社内に設置している企業と比べて、新製品による収益が2倍も多い傾向が見られる。その理由を推測するのは難しくない。既存の組織にはびこる古い思考が、画期的なアイデアの発展を阻むのだ。あるCEOから「1000マイル(1600キロ)くらい離れていれば大丈夫だろうか」と訊かれたが、それでも不十分かもしれない。15年ほど前、アメリカと日本の自動車メーカーのほとんどが設計部門をカリフォルニアに移転した。デトロイトからおよそ2300マイル、東京から5500マイルである。
以上の原則に、なんとスティーブ・ジョブズがおおむね沿っていた。ジョブズはイノベーションを厳密に管理していた。自分が望んでいるものを非常に明確に把握していた。パーソナル・コンピューティングにのめり込み、派手な成功と失敗を繰り返した約40年の経験から、多くのことを学んだ。そしてジョブズ自身がブレークスルーを目指すイノベーション・チームそのものであり、離れたほうがよい組織(アイデアを阻む組織)は存在しなかった。その結果、アップルは目覚ましい業績を上げた。
もちろん、ジョブズのような例は稀である。幸いなことに、イノベーションを進めるために無理に背伸びして偉大に見せる必要はない。その代わりに、イノベーション・オーガナイザーは決意に満ちたリーダーとして、イノベーションを可能にする最も重要な原則――ジョブズ自身も従った原則を、企業に根づかせるのだ。言い換えれば、自分がジョブズのように振る舞うのではなく、企業の振る舞いそのものをジョブズのようにするということだ。それが実現すれば、イノベーションがもたらす収益は劇的に増えるだろう。
HBR.ORG原文:Can’t Find a Steve Jobs? Hire an Innovation Organizer Instead February 12, 2014
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トム・エイガン(Tom Agan)
イノベーションとブランディングを専門とするコンサルティング会社、リビアの共同創設者兼マネージング・パートナー。