2.宣伝文句ではなく、現実味のあるストーリーを伝える

「よりよく、より早く、より安い製品です」、「この課題をこう解決し、こんな効果があります」、「こんなに充実した機能があります」――企業側のロジックでブランドを前面に押し出すこのようなメッセージは、デジタルCMOにとって過去のものと化している。こうしたメッセージは受け手からも、血液に混入した異物のごとく拒絶される。デジタルCMOは、その代わりにストーリーを伝える。そしてより重要なポイントは、自社のためにストーリーを伝えてくれる人を見つけるということだ。

 従来の物語と同じように、こうしたストーリーの多くには起承転結がある。そして画像や動画、データを織り交ぜながら展開されるので、刺激的かつ啓発的で、楽しめるものだ。

 IBMのマーケティング担当バイス・プレジデントであるタミー・カニッツァーロは、ブランドのストーリーテラーだ。ソーシャル・ビジネスのマーケティングを担当する彼女は、あの有名な「スマーター・プラネット――地球を、より賢く、よりスマートに」というビジョンの下にソフトウェア販売チームを率いている。「我々はソフトウェアを売っているのではなく、よりスマートな地球を目指しているのです」と彼女は語る。ナイキのマーケティングは、靴というより向上心を売っている。受け手に「あなたのベストを尽くそう」と訴えかけるストーリーを伝えているのだ。NFLのアトランタ・ファルコンズのCMOジム・スミスは「Rise Up(立ち上がれ)」と呼びかけるキャンペーンを展開し、ファンは呼応する。コカ・コーラは、郷愁と幸福感をかき立てるストーリーを通して炭酸飲料を売っている。さらに重要なのは、コカ・コーラは顧客自身がつくるコンテンツを充実させることで、自社の代わりに顧客にストーリーを語ってもらうよう働きかけていることだ。

 カニッツァーロによると、IBMに対する人々のブランドイメージは、同社が発するメッセージではなく、コミュニティによって形成される傾向にあるという。優秀なデジタルCMOは、こうした流れを直感で理解しているのだ。

3.チャネル間の溝を埋め、シームレスな顧客体験を提供する

 デジタルCMOは、顧客にとってチャネルは重要ではないと理解している。そもそもチャネルとは、企業の目標と組織構造を支えることを優先につくられており、顧客ニーズを満たすことは二の次でしかない。いまの顧客が求めるのはその反対だ。ブランドとの交流によってチャネル間の溝が埋まることを望んでいる。ストーリーや体験、サービスが顧客のニーズにまず応えるのが先で、ブランドのニーズを満たすのは後回しとすべきなのだ。

 シャロン・オーセンはスイスの高級化粧品ブランド、ラ・プレリーのグローバル・マーケティング担当シニア・バイス・プレジデントだ。真の顧客ニーズを満たすマルチチャネル体験を構築するために、彼女はまず、典型的な顧客像とペルソナを明確にすることから始めている。顧客の習慣や好みを隅々まで知り尽くし、どうすれば顧客の生活に付加価値を与えられるかを考える――ここからすべては始まるのだ。化粧品販売業のセフォラは、実店舗とモバイルチャネルを融合させることで、顧客が買い物しやすく、愛着を抱くような統合的な体験をつくり出している。

 ラ・プレリーのオーセンによれば、「目標は、企業のための改革ではない。デジタル社会の発展に伴い、顧客から求められるようになったブランド体験を提供すること」だという。