4.データを駆使し、正確なターゲティングと継続的な測定を行う

 デジタルCMOはデータを駆使した成果重視の施策に力を入れ、顧客を囲い込む「クローズド・ループ・マーケティング」を習得している。その目的は、投資から成果が出るまでの道筋を追跡し、マーケティング費用と業績を直接関連づけることにある。自社データと外部データを駆使し、予測分析、そして顧客が商品を選ぶ複雑な過程で学習し適応するアルゴリズムに従って、顧客の個々の状況に見合った製品・サービスや体験を選択する。データを活用したターゲティングと継続的な効果測定を組み合わせて、顧客を囲い込むのだ。その結果、成果重視の施策が実を結び、収益の最大化につながるようマーケティングへの投資を最適化できる。

 イーベイのCMOリシェル・パーハムは、このパフォーマンス・マーケティングを実践するマーケターの1人だ。イーベイでは1日に50ペタバイト以上ものデータを収集し、サービスと顧客体験の特定に活用している。たとえば、閲覧されたものの購入されなかった商品があれば、リマーケティングのチャンスになる。また、顧客の意思決定を助けて購買に導く推薦機能などの協調フィルタリングを理解する手がかりにもなる。

 しかしパルハムは、「パーソナライゼーションは下手にやるとうっとうしがられる」と警告する。たしかに度が過ぎると気味悪がれるだろう。「結局は画面を通じた接客販売業なので、感性と理性のバランスを取ることが大事です。顧客の行動を変化させるには、顧客がどんな人物で何に興味があるのかを理解しなければなりません」

5.積極的に実験し、ビジネスモデル仮説を問い直す

 デジタルCMOは俊敏(アジャイル)なマーケターであり、「実験と失敗を通して学び、展開する」やり方を歓迎する。ガートナーの調査によると、現在では企業のマーケティング組織の83%が、マーケティング費用のうち平均9.4%をイノベーションに当てている。デジタルCMOはそれをどう使っているかといえば、探求と実験、そして実践的学習である。彼らは、「持続可能な競争優位」は過去の遺物だと自覚しているのだ。こうしたCMOたちは、テストと検証を次々に行うイノベーション・パイプラインの構築を目指している。

 たとえばデルタ航空は、自社サイトやセルフサービス・チェックイン機、機内Wi-Fiやエンタテインメントにこの手法を適用し、ブランドに対する顧客の意見を汲み取る包括的なタッチポイントを構築している。一連の実験を継続的に行い、顧客体験を向上させるイノベーションにつなげているのだ。その成果として、チェックイン機での所要時間が20秒短縮され、デジタルチャネルによるチェックインが劇的に増え、全体的な顧客満足度とブランドイメージも向上している。

 とはいえ、デジタルCMOは1人では何もできない。戦略を指揮し実行する適切な人材を雇う必要がある。ローラ・マクレランとスコット・ブリンカーのHBR論文「CMOからCMTへ:マーケティングとデジタルを統合する」によれば、CMOを技術面で支援するチーフ・マーケティング・テクノロジスト(CMT)を置いている大手企業の割合は2014年時点で81%であり、前年の71%から上昇している(ガートナー調べ)。77%の企業は、顧客の一番の代弁者となり顧客体験の創造に最終責任を負うCCO(最高顧客責任者)を置いているが、うち48%の企業でCCOはCMOの直轄下にある。これらはCMOの戦略的重要性が増していることを示すものだ。他にも検討すべき役割として、データアーキテクト、企業内ジャーナリスト、データのストーリーテラー、最高コンテンツ責任者などがある。どれも10年前と今日のマーケティングの溝を埋めるために台頭してきた役割だ。

 この1年間でデジタルCMOは増え続けているが、彼らの秘めた能力は、まだ注目され始めたばかりだ。

 

HBR.ORG原文:5 Things Digital CMOs Do Better July 28, 2014

■こちらの記事もおすすめします
膨大な顧客データをいかに有効活用するか
新時代に成功するCMOと広告会社とは

 

ジェイク・ソロフマン(Jake Sorofman)
ガートナーのアナリスト。デジタル・マーケティングを支援するサービス、「ガートナー・フォー・マーケティング・リーダーズ」のリサーチ・ディレクター。