組織のなかで立ち往生するマーケター

 これまでのマーケターの使命といえば、ブランドを確立し、需要を生み出し、売上げを促進し、顧客ロイヤルティの強化に貢献することだった。しかし環境が激変するいま、彼らには従来とは異なる重要な役割が求められている。戦略家として、自社の優先課題を支えるために貴重なリソースを割り振り、ROE(自己資本比率)を高めなければならない。また技術者として、業界にあふれる先進テクノロジーのなかで最も有用なものを調査・活用しなければならない。そして、自社の事業の未来が過去の延長線上にあるとは限らないため、科学者の役割を果たす必要もある。かつては前もって計画されたキャンペーンのおまけとして目新しい企画を打ち出したりしていたが、いまではそちらのほうがマーケターの本業になりつつある。

 我々は以前から、これらの難題に果敢に挑戦するマーケターを何人も見てきた。しかし彼らの大半は、構造的な制約や能力的な限界にぶつかっている。営業・マーケティング部門が戦略的に優先順位を決めようとしても、なかなか組織の垣根を超えることができず、立ち往生してしまうことがあるのだ。マーケターに必要なスキルは、社内の他部門──たとえばIT部門や中央の分析グループ──が持っていることも多い。

 マーケターが実現したいことと、彼らが組織として実現できることの乖離を背景に、マーケティング手法を刷新する必要性が高まっている。では、どこから手をつければよいだろうか。ここ数年トップ・クラスの企業の間では、マーケティング部門と同部門とやり取りする他の機能(経営幹部、IT、営業、財務など)の境界に注目した新しいアプローチが見られるようになった。意思疎通の失敗やプロセスの失速といった現象が最も多く発生するのは、このような組織の境界付近である。そしてやっかいなことに、この境界線自体が曖昧になっており、業務のなかには担当する組織が転々と変わるものもある。