デジタルのソリューションをベータ版で運用すれば、テストの反復やオンライン行動の測定が容易にできるというメリットがある。ただし注意すべきは、ユーザーの心理や感情を汲み取らないために失敗するという可能性だ。IDEOの元リーダーたちが、人間らしさを失わずにデジタル・プロトタイピングを行う方法を示す。

 

 近頃ではほとんどの製品・サービスが、何らかのデジタル要素を含んでいる。このため企業にとって、デジタル・ソリューションに関するライブ・プロトタイピング(未完成の製品コンセプトを、市場や実際に顧客のいる状況に送り込むこと)を実施する必要性がますます高まっている。一般的な認識では、デジタル・ソリューションの製品開発は物理的ソリューションよりも容易と考えられている。この認識は的を射ている場合もあるが、我々が見たところ、製品開発プロセスがユーザーとかけはなれてしまい、人間的な要素を欠いたために、多くのデジタル・ソリューションが失敗に帰している。

 デジタル・ソリューション特有のメリットを知っておくことは有益だ。物理的ソリューションよりも容易であるという認識は、以下のような要因から来ている。

●ユーザーの期待:現在ではランディングページのテストやベイパーウェア(開発する意向だけを表明して、まだ出荷していないソフトウェア)のテストが当たり前となり、また企業によっては「常にベータ段階」をよしとする考え方がブランド・エクイティの一部になっている。そしてユーザーは「見せかけ」であったりきわめて粗削りだったりするオンライン・ソリューションを、かなり好意的に受け入れるようになっている。

●テストの実施しやすさ:オンライン運営における開発費や回線費、フルフィルメント(商品の受注から入金管理に至る一連の作業)などのコストが飛躍的に下がっており、企業は安価でより迅速にソリューションを公開してテストできる(異なる2パターンのウェブページを比較するA/Bテスト、世代の影響を測るコホート分析、購買意思決定プロセスを分析するファネル分析など)。

●必要なデータの入手:グーグル・アナリティクスやミックスパネルのような、さまざまなオンライン分析ツールや行動測定ツールが近年増えている。デジタル・ソリューションの設計者たちはより高度な情報を得られるようになり、情報に基づく精度の高い意思決定が可能になっている。

 しかし、デジタル・プロトタイピングにはリスクもある。ユーザーとの人間的な交流が伴わず、ソリューションの設計者が、オンライン行動の根底にある人間心理と感情の重要性を過小評価するおそれがあるのだ。同時に、クリックとスクロールの1つひとつを漏れなく測定し追跡できるがゆえに、製品開発プロセスとは直線的かつ機械的なものであるかのように思い込んでしまうこともある。行動データに直感や共感を交えて判断すべきなのに、結局データのみ――しかも多くの場合、登録、照会、支払いといったトランザクションのデータ――しか考慮されない。

 A/Bテストや同類の実験は、優れた設計センスを基に実施された場合は特に、マイナーチェンジには適している。だが比較的大きな改変や新製品に関しては、アイデアを1度の実験で完全に反映させることは期待できないので、データをめぐる「なぜ」を理解するためにより深いインサイトを探っていく必要があるのだ。

 デジタルのサービスや体験を設計しプロトタイピングを行う人は、上記の落とし穴を回避すべきである。その方法を以下にまとめた。