●複数の要因を個別に検討する
行動測定ツールは、複数の選択と行動をただ1つのデータポイントにまとめてしまう傾向が強く、誤った判断を生むおそれがある。前述の金融情報会社が、「課題の共有」という動機を後押しするソリューションを設計しているとしよう。ユーザーをチームに割り当てる機能を組み込めば、協働する相手が誰なのかを詳しく把握できるようになり、結果として協力をさらに促進できるかもしれない。
他方、協働を促進するために必要なのは、単にユーザーの「役割」をしっかり定義するだけでよいということも考えられる。ユーザーがどのように貢献しているか(創造者/促進者/批評家)を明らかにすれば、ユーザーはチーム体制でなくても有機的に協力し始めるだろう。この場合、協働の動機付けとして必要なのは、役割の明確化とチーム体制の組み合わせではなく、役割の明確化だけで事足りる。この金融情報会社がチーム機能を真っ先にリリースすれば、動機に合致しないソリューションに行き着いてしまうかもしれない。
●一部のユーザーのみを対象に、より深く探る
デジタル・プロトタイピングはどんなによくできていても、ユーザーとの間には一定の隔たりがあり、多くのニュアンスがこぼれ落ちてしまうものだ。このため、一部のユーザーと実際に会話することがしばしば有益となる。これはごく一般的なユーザビリティ・テスト(デジタル・プロトタイピングを試しているユーザーの隣に座って会話するなど)でもよいし、もっと手軽な手段(グーグルのハングアウトやスカイプなどを通じてのインタビュー)でもよい。
我々はこのプロセスを「ハイブリッド・リサーチ」と称している。まず行動データ全体を見てから、極端、特異または予想外の行動を示しているユーザーについて、さらに掘り下げて調べよう。これらのユーザーは、標準的なユーザーの間で起きている目立たない行動を、より増幅して示していることがよくあるからだ。
デジタルでもアナログでも、私たちはプロトタイピングを大いに重宝している。ただしそのプロセスは、ユーザーの行動様式の根底にある心理と感情を理解できるように構築しなければならない。これはデジタル環境において、より難しい課題となる。ユーザーから距離を置きすぎず、個々人が(通常は)被験者としてではなく、ユーザーとして自社の製品を利用していることを心に留めておこう。インターネットと無数のオンラインツールのメリットを最大限に活用すべきだが、それによって人間同士の共感が締め出されることがあってはならない。
HBR.ORG原文:The Human Element in Digital Prototyping May 19, 2014
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デイビッド・エイキャン(David Aycan)
モバイル決済会社スクエアのプロダクト・マーケティング・リーダー。ハードウェアの製品開発と販促を指導する。以前はIDEOでデザイン・ディレクターとビジネス・デザイン・ディシプリン・リーダーを務め、大企業や新興企業と協働して、新しい製品・サービス、ビジネスモデル、ベンチャーの設計に携わった。

パオロ・ロレンツォーニ(Paolo Lorenzoni)
食品業界にビッグデータを提供するフード・ジーニアスの製品開発担当バイス・プレジデント。以前はIDEOでビジネス・デザイナーとプロジェクト・リーダーを務め、分野横断的なデザイナーのチームを率い、食品、テクノロジー、小売りなどさまざまな業界における新しい製品・サービスやベンチャーの創出に携わった。