――マーケティングとサステナビリティ活動を統合するのは、多くの軋轢を伴うと思われるのですが。
はい。組織が次のような状態であれば、軋轢が生まれるでしょう。まずマーケティングが1つの縦割り部門として、消費者ニーズの特定と需要創出に取り組んでいます。そしてサステナビリティ部門が環境負荷の削減を担当している。さらにCSR部門が別途、自社の社会貢献に取り組んでいる。そしてコミュニケーション部門は、独自に――他の部門とは関連しないかもしれない――ストーリーを発信しています。ITやソーシャルメディアでつながり合った世界では、こうした社内の断絶はマイナスです。
最初に私がやったのは、CSR部門を事実上閉鎖して、従来型のCSRの概念から脱却することでした。むしろ、CSRを事業に不可欠な要素としてすべての活動に組み込もうと考えたのです。そうすれば、これまでCSR部門だけで行われていた活動が、栄養、水、衛生、健康、自己尊重などに向けた戦略的な取り組みに反映されます。
また、以前は当社のウェブサイトのユニリーバ・ドットコムはコミュニケーション・チームが統括しており、一方でユニリーバのブランド管理はCMOが担当していました。2つの異なるグループが、ブランドを別々の方向に導くというのはまずいでしょう。いまでは私がグローバル・マーケティング、社内および外部向けのコミュニケーション、渉外、そしてユニリーバ基金を統括しています。さらに、チーフ・サステナビリティ・オフィスを設置して、持続可能性の進展に関する報告を私のところに集約させています。
こうすることで私は、ユニリーバが持続可能性にどう取り組んでいるかを示すメッセージを、社内においても世間に対しても、明確化して整合性を図ることができるのです。社内に対しては、とにかく一致協力すべしということを始終伝えています。ユニリーバ・サステナブル・リビング・プランと、「持続可能な暮らしをあたりまえに」という当社の目標の実現に向けて、社員が1つのチームとして協力し合えるようにするためです。
――マーケターの本業は、需要を増やすことです。それは環境への負荷を減らすという目標と相容れないのでは?
誤解しないでほしいのですが、私たちはより多くの人々に当社の製品を買ってもらい、使ってもらうことを強く望んでいます。私たちはただ、自社の製品が他の選択肢よりも優れ、よりサステナブルであるように努めているのです。それは環境負荷を減らすために製品のイノベーションに取り組むことであり、製品の使い方に関する顧客の行動を変えるということです。将来的に人々は消費を減らしていくだろう、という見方もあります。しかし私が顧客行動を見る限り、その予想を支える根拠はありません。2050年には世界人口がいまより20億人増えると見られていますが、「自分たちは遅くに生まれたから、以前とは違うライフスタイルを甘んじて受け入れよう」などと彼らは言わないでしょう。現在のあなたや私と同じ生活水準を望むはずです。
持続可能性を重視することで、偉大なブランドが築けない、あるいは優れたマーケティングと事業成長に重きを置いていない、とは思ってほしくありません。実際にはその反対です。当社は市場シェアを伸ばしており、競合他社をしのぐ成長を遂げています。持続可能性への取り組みは、まさに成長戦略なのです。
――社会的・環境的な持続可能性に対する企業の取り組みにおいて、マーケティングが果たせる役割は何でしょうか。
消費財業界では、マーケティングは事業の将来の方向性を明確にするうえで主導的な役割を担います。当社のマーケティング戦略である「クラフティング・ブランズ・フォー・ライフ」を支える柱の1つは、「人間を第一に」――つまり顧客を消費者としてではなく1人の人間として見るということです。ケアが必要な髪、デオドラントが必要な脇、という見方ではなく、人々の生活全体を見つめてより深いニーズを理解するのです。