当社はもともと、この思想に基づいて創業されました。1800年代後半に、創業者の1人ウィリアム・リーバはロンドンのスラム街を視野に入れていました。そこは現在のムンバイや、サンパウロのファベーラといったスラム街と同じ劣悪な環境です。そして「清潔をあたりまえにする」というミッション・ステートメントを掲げました。ただの石鹸にも世の中をよくする力がある、と信じたのです。同時に、巨大なビジネスにつながるということも。そして殺菌効果を持つ世界最初の石鹸、〈ライフブイ〉を売り出しました。このブランドは今日、アジアとアフリカの途上国で手の洗い方を教え、伝染病の予防とビジネスを両立させています。これまで3億人の人々に、正しい手の洗い方を教えてきました。
環境面の持続可能性に関しては、柔軟剤の〈コンフォート〉という例があります。途上国の多くでは、人々は水を汲むために長い距離を歩き、多くのお金を支払っています。ですから節水できるということには特別な価値があります。当社は少ない水で洗濯できる〈コンフォート・ワン・リンス〉を開発し、必要な洗濯水をバケツ4杯から2杯に減らしました。興味深いことに、最初に持続可能性のメリットを強調したマーケティングを展開したところ、顧客の関心をあまり得られませんでした。しかし水汲みと洗濯の労力が減ることを強調したら、人々の関心が高まったのです。
つまりマーケティングの役割は、人間としての根源的なニーズを特定し、ソリューションを提供することだと思います。それがうまくできれば、社会面、環境面、そして事業成長という3つの目標に同時に対処できるのです。
――マーケティングとサステナビリティ活動の統合について、他社へのアドバイスはありますか。
自社は何を追求しているのか――最終的にはそれに基づいて方針を決める必要があります。自社なりの視点を持つということです。まず自分たちの戦略は何かを考えてください。当社の場合、それはこう自問することから始まりました。「世の中を変え、ユニリーバをも変えていく潮流は何か」。それを4つ特定しました。デジタル革命。資源に限りがあるこの地球における持続可能性。経済の勢いが世界の東側と南側にシフトしており、ユニリーバのような(グローバルな)企業にとってチャンスが生まれていること。そしてライフスタイルの変化、たとえば地方から都市部への人口流入などです。これら4つの大きな潮流を通して、当社のなすべきことが明らかになりました。ほとんどの企業にとっても、これらは重要ではないでしょうか。
ソーシャルメディアでつながり合ったデジタル世界では、コミュニケーションとマーケティングは不可分です。もし分かれていれば、企業として矛盾していることになります。1つの、一貫した見解を発信しなければなりません。そして資源の限られた世界では、マーケティングと持続可能性の戦略もまた不可分なはずです。需要を創出する一方で、需要が生む負荷を減らす、という両方が必要なのです。CSR活動では、事業がもたらす負荷のすべてを相殺することはできません。
もし自社を本当に成長させたいなら――それを持続可能な方法で実現したいならば、マーケティングと持続可能性の取り組みを1人のリーダーに任せることです。持続可能な成長を実現するうえでのマネジメント上の課題を解決する手段を、その人物が見出せるよう、体制を整える必要があります。当社もすべての答えを得たわけではなく、学習を続けています。しかし当社にとって、そしてほとんどの企業にとって間違いなく、持続可能性は選択の余地がある問題ではないのです。人々は私によく、持続可能性を追求するビジネス上の根拠は何かと尋ねます。私はいつもこう答えています――「持続可能性を抜きに成長する方法があれば、ぜひ教えてほしい」と。
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ガーディナー・モース(Gardiner Morse)
『ハーバード・ビジネス・レビュー』のシニア・エディター。