職場での不正行為は組織を蝕み、巨額の損失を招きかねない。これを食い止めるためには、「仕事の能力と倫理観は相関しない」ことをマネジャーが認識し、倫理観の醸成に組織的に取り組む必要がある。その6つの要諦を経営心理学の権威が示す。


 マネジメントに関するあらゆる課題のうち、最も取り上げられることが少ないのは、間違いなく次の問題だろう。非倫理的な行動が目立つ従業員に、どう対処すべきか。特に、その人物が有能で替えがきかない場合には?

 このテーマが多かれ少なかれタブーとされているのは、3つの理由による。第1に、倫理・道徳は定義が難しく、往々にして哲学的な議論に入りこまざるをえないが、マネジメント論の著者は形而上学にアレルギー反応を示す向きが多い。第2に、人を不道徳であると見なすのは物議をかもす行為である(もっとも、「節操のない」「不正直な」「腐敗した」といった言葉を替わりに用いてもけっして遠回しな言い方にはならない)。

 3つ目の問題は、マネジャーが、単に部下だけでなく自分自身の倫理観についても理解に苦労していることである(英語論文)。多くのマネジャーは、正直さと能力は正の相関関係にあるという共通の思い違いをしているが、有能で不正直な人は多くいるし、正直で無能な人も大勢いるのだ。

 ゆえにマネジメントの世界は通常、「従業員は概して倫理的であり、"腐ったリンゴ"は例外的な存在で見つけ出すのもたやすい」という幻想の下に動いている。しかし、職場におけるいじめ、規則違反、窃盗といった不正行為は巨額の損失につながる。エンロンやワールドコムのスキャンダルを考えてみていただきたい。米国経済に初年度だけでも約400億ドルを失わせたが、これは連邦政府が自国の安全保障に毎年費やす額とほぼ同じである(英語論文)。

 したがって、一部の人々は非倫理的な行為への誘惑に抗いにくい傾向を持つということ、そしてマネジャーはチームや組織における不正行為の増減を左右しうるということを、そろそろ認識しなくてはならない。倫理観の低い従業員をどうマネジメントすべきか、学術文献から得られた6つの助言を以下に示す。

1.従業員エンゲージメントを高める
 研究によれば、倫理的資質と非生産的な勤務態度の関係は、仕事への満足度によってある程度影響を受けるという(英語論文)。倫理観が低い従業員であっても、仕事に満足していれば道徳的に振る舞う可能性が高い。従業員を疎外すると、当人が誠実さを備えていても倫理観の放棄を促しやすい。従業員に有意義な任務を与え、評価されていると実感させ、成熟した人間として扱おう。そうすれば倫理観の度合いに関わらず、組織の一員として責任ある行動をしようという意欲を喚起できる。

2.リーダーみずからが範を示す
 研究によれば、従業員はリーダーの道徳的な水準を見て、組織の倫理性を判断する(英語論文)。これがマネジャーに示唆することは明らかだ。つまり、従業員に道徳的な振る舞いを望むなら、まず自分自身から始めよということだ。これはラインマネジャーにとって特に重要である。メタ分析で示された結果によれば、部下は上司を信頼している時により幸福を感じ生産性を高めるため、双方にとって好都合となる(英語論文)。