早稲田大学ビジネススクールの教授陣がおくる人気連載「早稲田大学ビジネススクール経営講座」。6人目にご登場頂くのは、組織心理学がご専門の西條剛央客員准教授だ。MBAで担当していた「組織と哲学」の講義は、学生たちの好評を得たという。ビジネスの現場から遠いと思われがちな「哲学」が、組織にどのような影響を与えるのか考える。

哲学はビジネスの現場でも役立つ

 私は早稲田大学ビジネススクールで「組織心理学」「質的研究方法」「ビジネス研究法の基礎」「ソーシャルビジネス特論」といった科目に加え、「組織と哲学」という風変わりな科目を担当していた。実はこの科目は、早稲田大学ビジネススクールでも前例のない科目である。ところが意外なことに、「組織と哲学」というこの講義は、多くの学生が聴講する人気講義のひとつになった。おそらく哲学が「現場で役立つ」ものだと、感じてもらえたのだと思う。

 組織で使える、現場で役立つ哲学とはいったい何であろうか。第1回目では私が立ち上げた「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を事例にこの疑問に答えていく。この連載が本当に使えるかどうかは読者の皆様に判断していただく他ないが、経営の分野では「聞いた事がない話」になることはお約束しよう。

「ふんばろう東日本支援プロジェクト」とは何か

 2011年4月、私は早稲田大学で教鞭をとる傍ら「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を立ち上げた。これは2011年3月11日に起こった東日本大震災の支援のために、全国の支援者から被災者に必要な物資を必要な分だけ送るための仕組みをつくるところからスタートしたものだ。被災者が必要とする物資を3000箇所以上の避難所や仮設住宅へ届け、その後も「家電プロジェクト」では日本赤十字社の支援を受けられない個人避難宅を中心に2万5000世帯以上に家電を支援した。

 さらに「重機免許取得プロジェクト」では、現地での仕事につなげられるよう1100名以上の被災者が無料で重機免許を取得できるよう支援した。「PC設置でつながるプロジェクト」では219箇所もの仮設住宅のPCインフラを整備。その他にも「ミシンでお仕事」や「手に職・布ぞうり」「就労支援」「物づくり」「学習支援」といった自立支援系プロジェクトや、「おたより」「エンターテイメント」「ハンドメイド」「緑でつながる」といった多岐に渡る50以上のプロジェクト、支部、チームがそれぞれ大規模な支援活動を実現した(注)。