多様な意見が集まれば必要となる
一つの意思決定につなげるプロセスと技術
多様な意見を収束する際、みなの意見をくみ取って統合させようとすることがあります。そうして作り上げた意見は、皆の主張が加味されているようにみえて、参加者のだれもが望まない意見となってしまうことがあります。そこまで極端でなくても、先の広告クリエイティブの議論などで、複数の表現を混ぜてしまうことで、何も表現として伝わらない広告になってしまったという例は枚挙に暇がありません。
そこには、合理性から出ている意見もあれば、「好き・嫌い」から出てくる意見もあります。リスク選好に対する容認度の違いも意見の相違につながります。このような場合、情と理を分けようというのは簡単ですが、一人の個人の中の主観と客観の別は本人さえ区別しにくい。また過去に前例のない意思決定の場合、客観的な事実のない中での話し合いになります。
最終的には答えのわからない問題に意思決定を下すのは、リーダーの役割ですが、多様な意見を取り入れながら「正しい」意思決定につなげる技術は、ある意味非常にバランスのとれた感覚が要求されます。リーダーの高度なバランス感覚なくして、組織としてのポジションをとった思い切った意思決定はできないとも言えます。
もっとも組織の問題をリーダーの問題にまとめてしまうと建設的な議論が進みません。このようなスキルは社会全体として、その総量を増やすことが大事です。多様な意見を出し合い、それらを多様な人びと同士が傾聴し、個々の意見から昇華された、より高次の意見やアイデアをつくりあげるプロセスや技術があれば、多様性はもっと広がると思います。
日本企業は他社のマネばかりで、戦略がないと言われ続けてきました。その原因は人材の多様性がなかったことよりも、多様な意見を、正しく意思決定に結びつける技術やプロセスがなかったことの方が大きな要因だったのではないでしょうか。(編集長・岩佐文夫)