ガイダンス反対論

 上記の論拠に真っ向から異議を唱えるのが、ガイダンス反対派だ。ここでの中心的な論点は、「不確実な経済・金融環境においてガイダンスを行うことのリスク」である。

●予測不能性が考慮されない
 反対派の第一の論拠は、ガイダンスは企業のコントロールが及ばない重要な変数の多く――つまり不確実性――を無視している、というものだ。先の金融危機で浮き彫りになったように、世の中には数多くの不確定要素が存在し、収益源、商品・サービスのコスト、そして時価会計の判断などに影響を及ぼしうる。

●予想と実績の誤差を厳しく問われる
 投資家は、「利益予想と実績の乖離は、比較的狭い範囲内(往々にして統計的な誤差の範囲内)に収まるべき」というこだわりを持っている。この固定観念が、事業環境の予測不能性に拍車をかける。1株当たり利益が1、2セントほど予想に「届かない」ことに、投資家が過剰反応するならば、ガイダンスは株価の変動率を低減どころか増大させかねない。

●開示義務が増える
 企業はガイダンス達成/未達の見通しが明らかになった場合、業績を決算発表の前に報告すべきかどうかという問題が生じる。一方、ガイダンスを実施していなければ、定例の業績発表に先立って特別な開示をするよう、法的圧力や市場の圧力を受ける度合いが低くなる。

●非公式の予測(ウィスパー・ナンバー)が飛び交う
 企業が利益予想を控え目に発表し、実績がほぼ毎回それを上回る傾向があれば、投資家は懐疑的になるかもしれない。この場合、市場では専門家筋が期待する非公式の数字がささやかれかねない。そうなれば当該企業が実際に市場の期待に応えたのか、あるいは上回ったのか否かを判断しづらくなるうえ、おそらく投資コミュニティ内ではCFOの信頼性は揺らいでしまうだろう。

●会計判断はバイアスと無縁ではない
 会計判断にはある程度の主観性が伴うものだ。したがってガイダンスを実施すれば、財務諸表の作成時に(意識的、もしくは無意識的な)バイアスが生じるかもしれない。特に、わずかな差異が投資家の認識に大きく影響する事項については、このおそれが強まる。