結論
賛否両論の比較検討を踏まえ、私はガイダンスを「実施しない」立場を支持する。私がこの結論に達したのは、先の景気後退と金融危機の期間に、CFOとして経験したことに深く影響を受け、自身の考えが変化してからのことだ(筆者は2000~2010年の間に、ピツニーボウズとイー・トレード・フィナンシャルのCFOを歴任)。
ただし収益ドライバーに関しては、開示を拡大すべきと私は考える。CFOが業績に影響を及ぼす変数、すなわち収益ドライバーについて追加情報を提供すれば、セルサイドとバイサイド双方のアナリストが予想を立てるうえで助けとなる。さらに、投資家とのコミュニケーションにおける透明性の点でも評判を強化できる。たとえば以下の変数について、定期的に言及するとよい。
・外的要因(外国為替レートや金利など)に自社がどの程度影響を受けるか
・収益に影響を与える自社特有の要因(価格水準、製品・サービスへの需要の弾力性など)
・コスト構造を改善する取り組み(主要なコスト項目の動向見通しなど)
・財務に影響を与えうる主要な会計要因(年金基金の割引率、主要資産の減価償却スケジュールなど)
・翌四半期または次年度に影響を及ぼす特殊な要因(資産売却損益の見通し、訴訟による潜在的影響など)
さらに、損益計算書の中で特に予測不能な箇所に関して、ガイダンスを提供するのも得策だ。たとえば税額計算は変動しやすいことで有名だ。CFOは明確な指標を与えるために、翌四半期または次年度の実効税率見通しに関して、投資家に最新情報を定期的に提供するのもよい。
将来の売上げや収益を左右するKPI(重要業績評価指標)についても同様に、CFOは透明性を確保すべきだ。たとえば顧客数、社員数の動向、マーケティングと広告への支出見通しなどについて、投資家に最新情報を提供するのだ。投資家はCFOが重要と考えている指標、およびそれらに対する現在のパフォーマンスを知ることができれば、ありがたいはずだ。
HBR.ORG原文:Providing Earnings Guidance? Think Again May 4, 2012
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ブルース・ノロップ(Bruce Nolop)
投資銀行家および企業幹部として35年のキャリアを持つ。CFOとしての経歴は、ピツニーボウズおよびイー・トレード・フィナンシャルの両社を合わせて10年を超える。著書にThe Essential CFO: A Corporate Finance Playbook (Wiley, 2012)がある。