こうして250の発明アイデアがリストアップされるのだが、やがてその一つ「音声つき電子翻訳機」に絞りこんでいく。これは「スピーチシステム、辞書、液晶ディスプレイ」の三つのキーワードを組み合わせて捻り出された、合成音声つきのエレクトロニック・ディクショナリーだった。彼はこれを製品化するためにUCバークレーの研究者たちを説得して役割を振り、プロトタイプを完成させ、結果として億単位の軍資金を手にする。

 このエピソードは孫氏のビジネス設計のパターンをよく表している。その後の彼の成功は、いわば「成功プロセスを発明する」というモデルによってもたらされている。孫氏は理想が高いだけでなく、リアルなプロセス設計者なのである。

2040年に時価総額200兆円のグループを目指す

 2010年に孫氏は「新30年ビジョン」を発表する。そこで「30年後に世界でトップ10の会社になる。少なくとも(時価総額で)200兆円規模になっていなければならない。現役最後の大ボラ吹きだ」とぶち上げた。そして「ソフトバンクの事業領域は情報産業。情報革命の考えは創業1日目から変わっていない。30年後も300年後もこの1本」と断言した。

 ソフトバンクの本業は技術開発ではない。優れた技術を持つ企業と組んで「一緒に提供していく」モデルである。自ら生み出すというより、資本提携やM&Aで事業を拡大している。孫氏の200兆円企業へのロジックは次のようなものだ。会社が30年間存続する率は0.02%にすぎない。99.98%の会社は倒産や解散、吸収で存続できなくなっているという。成長を遂げるには、自前主義で事業を作っていくのではダメで、同志的結合でオープンに作っていくことが重要だというわけである。

 ソフトバンクがこれまで出資や買収を通じて傘下に収めた企業は、現在約800社を超える。孫氏は「30年後にはグループを5,000社くらいに拡大したい。その頃世界中にコンテンツやサービスをやる会社が500万社は出てくると思う。その時価総額合計は1,000兆円位になっているはずだ。ソフトバンクグループ5,000社は社数としてはシェア0.1%だが、売上や時価総額では2割くらいとりたい。だから1,000兆円×2割=200兆円」と言うわけである。