壮大なビジョンを掲げ、大胆な経営者のように思われがちな孫正義氏。しかし、実際の発言や経営行動は一貫しており、リアルな戦略と方法論を持つことが分かる。第2回では孫氏の「緻密な戦略的経営者」から、プロ経営者の条件を考える。

リアルな戦略と方法論を持つ起業家

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山根節(やまね・たかし)
早稲田大学政経学部卒業、慶應義塾大学ビジネススクールにてMBA取得、慶應義塾大学商学研究科にて商学博士号取得。監査法人トーマツ、コンサルティング会社(代表)、慶應義塾大学ビジネススクール、米国スタンフォード大学(客員研究員)を経て2014年4月より現職。専門は会計管理論、経営戦略論、マネジメント・コントロール論。主な著書に『山根教授のアバウトだけどリアルな会計ゼミ』(中央経済社) 『なぜ、あの会社は儲かるのか? 』早稲田大学・山田英夫教授との共著(日経ビジネス人文庫)『新版ビジネス・アカウンティング—財務諸表との格闘のすすめ』(中央経済社)

 最初に取り上げるのは、世間の注目を浴びることの多い孫正義氏である。孫氏は、世間からは「勇猛果敢なギャンブラー」のように見られる面がある。私も最初はそう思ったが、孫氏の発言や実際の行動を調べていくうちに、全くの誤解であると思うようになった。私は昨年、ソフトバンクのケース教材を制作したが、それは米携帯通信事業者スプリント・ネクステルの買収にフォーカスを当てたものである。2008年には日本の携帯通信3位のボーダフォン日本法人買収のケースも書いたが、彼の経営行動は創業以来一貫したポリシーに基づいている。つまり基本設計図にブレがない。

 孫氏の戦略と方法論とは、どんなものか。孫氏が最初に大ブレイクしたのは、米ヤフーへの出資である。出来立てのインターネット・ベンチャーだった米ヤフーに100億円出資し、同時にヤフー日本法人を立ち上げ成功をつかんだのである。ヤフーへの出資は結果として様々な形で(事業利益や投資のキャピタルゲインなどで)、何兆円にも及ぶ利益をソフトバンクにもたらした。

 最近、マスコミで大きな話題になったのが中国アリババへの出資である。やはり出来立てベンチャーだったアリババに20億円の投資をしたのは、2000年のことである。最近アリババがニューヨーク証券取引所に上場したおかげで、20億円が8兆円前後の評価額に化けた。投資リターンがあまりに大きいので、「ギャンブルに勝った」と見られがちなのだが、実はその奥にはしたたかな戦略設計とマネジメント・コントロール設計が隠されているのである。

 孫氏の伝記『志高く』に、彼が高校生の時に日本の進学校を捨ててUCバークレーに飛び級で入り、そこで「電訳機」を発明する話が出てくる。彼は高校生の頃から起業しようと心に決めていた。その軍資金を作るために、ユニークなものを発明しようと思いつくのだが、彼がユニークなのは「一つ一つ発明していたのでは埒があかない。発明するプロセスを発明しよう」と考えたことにある。そこで彼が考え出したのが、思いつく限りのキーワードを並べ、パソコンでランダムに3つのキーワードの組み合わせリストを作り、その組み合わせから発明品のアイデアをひねり出すという方法である。それぞれのアイデアには「新しさ、コスト、アプローチのしやすさ」などという観点の評価をポイント化し、総合点の高い順に並べ…、というプロセス設計をした。