独自の戦略と方法論を描くプロ経営者

 その後の孫氏の事業展開は、すべて「情報革命のインフラの提供者」という観点から読み解くことができる。すべてをここで述べることはできないが、例えばボーダフォン日本法人買収もそうである。当時、既に固定通信から無線通信に世界が変わりつつあり、このプラットフォームの上でビジネス構築を進めたいと考えるベンチャーがたくさんあった。そんな世界のベンチャーが目の色を変えるほど魅力を感じ、手を組みたがっていたのが日本の携帯キャリアである。

 当時、アメリカに日本の携帯電話を持っていくと、アメリカ人は皆驚いていた。まだアメリカの携帯電話が通話中心で、白黒の小さなディスプレイしか持たなかった時代である。日本の携帯電話は既に大きなカラーディスプレイを備え、おサイフケータイやワンセグ放送視聴を可能にしていた。NTTドコモのiモードなどでは、今日のスマートフォンのアプリと似たようなサービスが溢れていた。日本は世界の遺伝子体系から外れたガラパゴスだったが、しかしケタ違いの先端的ガラパゴスだったのである。だから世界のベンチャーが組みたいと考える「情報革命のインフラ」は日本にあった。ただしその繁栄は短かったが。

 そして何故最近、孫氏が米国スプリントを買収したのか。それは情報革命のインフラが一気にスマートフォンに移り、しかもそのメッカがまたしてもシリコンバレーになったからである。シリコンバレーで一目置かれないと、ベンチャー投資の良質な情報は入らない。孫氏がアリババに投資したのは2000年だが、アリババの情報をつかんだのも孫氏がヤフーでの成功談を世界にPRした結果である。孫氏の出資はマイナー出資だが、ソフトバンクグループの全面協力を受けつつ自由に経営できる。そんな孫氏の出資姿勢に惹かれて、アリババは投資を求めてきた。現実に孫氏はヤフー中国を統合する仲介をし、ヤフー・ジャパンのノウハウを提供してアリババを支援した。そのリターンがアリババ株、8兆円のキャピタルゲインということになる。

 私が最近VCや投資銀行の複数の人達から聞いた話では、「良い投資案件の話はまず孫氏のところに持ち込まれる」とのことである。またシリコンバレーでも「孫氏は一目置かれている最も有名な日本人」と聞いた。世界のベンチャーは孫氏に資金だけでなく、グループ企業が持つ様々なリソースにも期待している。「情報革命のインフラの提供者になる」という孫氏の戦略は、ピタリ的を当てているのである。